― FABRIX最終カンファレンスとDe HERから見えた、都市型サーキュラーエコノミーの可能性と課題 ―
2026年10月7日、オランダ・ロッテルダムで開催された「Urban Fashion Networks: Systemic Design and Practice」に参加しました。
本イベントは、EUの研究・イノベーション支援プログラム「Horizon Europe」によるFABRIXプロジェクトの最終カンファレンスです。
FABRIXは、2024年から2026年にかけて、オランダのロッテルダムとギリシャのアテネを実証都市として、地域に根差した持続可能なテキスタイル・ファッション産業の構築を研究してきました。
会場となったのは、ロッテルダム市のサーキュラーエコノミー拠点「De HER」です。
今回、特に印象的だったのは、繊維リサイクル技術そのものではなく、都市の中に製造・修理・再利用の機能を取り戻し、それを経済活動としてどう成立させるかという議論でした。
1.FABRIX:テキスタイルの循環を「都市」から考える
欧州では、長年にわたってテキスタイル製品の製造拠点が域外へ移転してきました。
その結果、都市部では製造設備や熟練人材が減少し、衣類の消費と製造が地理的に分離しています。
一方、衣類の廃棄物は都市の中で発生します。
回収された衣類を再利用・再資源化しようとしても、地域に選別、修理、加工、製造を担う企業が存在しなければ、循環を実現することは困難です。
FABRIXは、こうした課題に対して、個別企業の技術開発だけではなく、都市の産業構造そのものに着目しています。
例えば、地域のどこに縫製企業や修理事業者、デザイナー、素材メーカーが存在するのか。
どの企業がどのような資源を必要とし、どの企業から副産物や余剰素材が発生しているのか。
こうした情報を可視化し、企業間の連携を促進するためのデジタルプラットフォームなどが開発されました。
重要なのは、企業の情報を集めること自体ではありません。
地域に存在する技術、人材、資源を結び付け、新しい循環型ビジネスが生まれる環境を整えることです。
2.循環型ビジネスを成立させる難しさ
午後のパネルディスカッションでは、実際に事業を展開する起業家たちから、具体的な取り組みと課題が紹介されました。
特に興味深かったのが、ロッテルダムのRemake Societyです。
登壇したEsther Smit氏は、使用済み衣類や余剰テキスタイルを活用した製品づくりと、就労機会が限られている人々の職業訓練・雇用を組み合わせた事業を展開しています。
ここでは、廃棄される素材だけでなく、十分に活用されていない人々の技能にも価値を見いだしています。
サーキュラーエコノミーが、資源循環だけでなく、地域雇用や技能の継承とも結び付いている事例です。
また、Fruitleather RotterdamのKoen Meerkerk氏からは、廃棄マンゴーを原料とする皮革代替素材の開発について紹介がありました。

これは繊維のリサイクルとは異なりますが、廃棄物を新しい産業用素材へ変えるという意味で、共通する課題を持っています。
それは、素材を開発した後、誰が購入し、どのような製品に使用するのかという問題です。
再生素材やアップサイクル製品の開発に成功しても、価格、品質、供給量、デザインなどが市場の要求に合わなければ、継続的な事業にはなりません。
実証実験で製品を完成させることと、商業的に成立させることは別の課題なのです。
3.リサイクルだけではなく、リユースとデザインの可能性
今回のパネルでは、使用済み衣類を組み合わせて新しいジャケットを製作する事例も紹介されました。
セーターやパンツなど、従来は廃棄されていた衣類を素材として活用する取り組みです。
しかし、環境に配慮した製品であるという理由だけで、消費者が購入するわけではありません。
実際に着たいと思えるデザインであること、品質が確保されていること、そして納得できる価格であることが必要です。
ここに、循環型ファッションの難しさがあります。
回収資源は、新品の原材料と異なり、品質、形状、数量が必ずしも一定ではありません。
そのため、従来の大量生産を前提とした製造プロセスを、そのまま適用することは難しくなります。
一方で、回収された素材の特徴を生かした製品設計や、小規模で柔軟な製造には新しい可能性があります。
ただし、こうした事業を広げるには、デザインだけでなく、安定した資源調達、製造体制、販売先の確保が必要になります。
4.De HER:廃棄物処理施設を地域の事業拠点へ
今回の会場となったDe HERでは、施設見学も行われました。
De HERは、ロッテルダム市の廃棄物持ち込み施設に併設された、リユース・修理・ものづくりの拠点です。
2025年に開設され、現在は約16の起業家が活動しています。
ここで興味深いのは、市民が持ち込んだ不要品を、単に分別してリサイクルするのではなく、再利用可能なものを選び出し、起業家の活動につなげている点です。
木材、家具、テキスタイルなどの回収資源が、新しい製品を生み出す材料として活用されています。

施設内では、起業家が作業スペースを利用し、回収された素材を使った製品づくりや、修理、教育活動などを行っています。
また、製品を再利用するためには、住民が持ち込んだ段階で適切に判断することも重要になります。
例えば、まだ使用できる製品が廃棄物として処理されれば、その製品価値は失われてしまいます。
逆に、最初の段階で再利用できるものを選別すれば、修理や再販売、新たな製品への活用につなげることができます。
De HERは、従来の廃棄物処理施設を、地域の資源循環と起業の拠点へ転換する試みだと感じました。
ただし、これも完成されたビジネスモデルではありません。
回収資源の供給量や品質、保管スペース、起業家の採算性など、運営上の課題は残ります。

それでも、既存の自治体施設を活用し、地域の企業や住民との接点を生み出していることには、大きな意味があります。
5.循環型産業に必要な「つなぐ役割」
今回のカンファレンスを通じて、繰り返し強調されていたのが、企業や組織をつなぐファシリテーターの存在です。
循環型ビジネスでは、素材を回収する企業、加工する企業、製品を開発する企業、販売する企業が、それぞれ異なる役割を担っています。
しかし、それぞれの企業が存在していても、自動的に連携が生まれるわけではありません。
例えば、ある企業で発生する端材が、別の企業では有用な原材料になる可能性があります。
その可能性を見つけ、技術的な条件や事業性を確認し、実際の協業につなげる役割が必要になります。
FABRIXでは、都市の産業構造の可視化やデジタルツールに加え、地域の事業者間の関係構築も重視されています。
これは、サーキュラーエコノミーにおいて技術や設備だけでは解決できない部分です。
資源の循環には、企業と企業、人と人をつなぐ仕組みが必要なのです。
6.経済合理性とサステナビリティの間で
最終セッションでは、FABRIXの3年間を振り返りながら、欧州の繊維産業が抱える構造的な課題についても議論がありました。
その一つが、経済合理性とサステナビリティの関係です。
欧州では過去数十年間、製造コストなどを背景として、多くの繊維製品の生産が域外へ移転してきました。
現在、サーキュラーエコノミーの観点から、地域の繊維産業を再構築する動きが進んでいます。
しかし、地域で製造することが環境や社会にとって望ましいとしても、それだけで企業の競争力が確保されるわけではありません。
さらに、近年はサステナビリティに加え、経済安全保障や供給網の安定性、価格の手頃さなども重要な政策課題となっています。
これらを同時に実現することは容易ではありません。
また、規制や政策を増やすことが、必ずしも産業の成長につながるとは限らないという問題提起もありました。
循環型産業を育成するには、制度的な支援とともに、企業が継続的に収益を生み出せる市場環境を整える必要があります。
7.日本への示唆:リサイクル技術から地域産業の再設計へ
今回のFABRIXとDe HERの取り組みは、日本にとっても参考になる点が多いと感じました。
日本には、繊維製造や縫製、染色、加工などの技術を持つ地域企業が数多く存在します。
また、自治体には資源回収施設やリサイクルセンターなど、既存の公共インフラがあります。
しかし、地域で回収した資源と、それを活用できる企業や技術が、必ずしも十分につながっているわけではありません。
例えば、使用済み衣類や製造工程で発生する繊維端材を、地域の製造企業やデザイナー、修理事業者と結び付けることができれば、新しい事業機会につながる可能性があります。
さらに、地域に残る製造技術や職人の技能を次世代へ継承することも、循環型産業の重要な要素になります。
ただし、資源を回収して企業へ提供するだけでは、事業として成立しません。
再生された素材や製品を誰が購入するのか。品質と価格をどのように確保するのか。安定した需要をどのように生み出すのか。
こうした課題まで含めて、循環型ビジネスを設計する必要があります。
特に重要なのは、個々の企業や技術だけでなく、地域全体の産業構造を捉える視点だと考えています。
8.現地参加を通じて感じたこと
今回、FABRIXの研究成果、起業家による取り組み、そしてDe HERの現場を見ることで、サーキュラーエコノミーの実装には多くの要素が必要であることを再認識しました。
欧州では、地域の産業ネットワークを可視化する研究が進み、実際に資源循環型ビジネスを展開する起業家も生まれています。

一方で、それらを継続的な事業として成長させるための市場形成や、収益性の確保には、まだ多くの課題があります。
今回、最も印象に残ったのは、サーキュラーエコノミーを個別のリサイクル技術や環境対策としてではなく、都市の経済活動全体を再設計する取り組みとして捉えていることでした。
「何をリサイクルするか」だけでなく、「誰が資源を使い、誰が製品をつくり、誰が購入するのか」。
この関係性が成立して初めて、資源循環は持続可能な経済活動になります。
日本にも優れた製造技術、地域産業、人材があります。
それらをどのようにつなぎ、新しい事業として成立させていくか。
今回のFABRIXとDe HERの取り組みは、その可能性を考えるうえで非常に参考になるものでした。
YEJapanでは、欧州拠点Circular Eとの連携を通じて、こうした欧州の政策、研究、都市実装、企業の取り組みを継続的に調査し、日本の製造業や自治体、地域産業との連携につなげていきたいと考えています。
参加イベント情報
イベント: Urban Fashion Networks: Systemic Design and Practice
開催日: 2026年10月7日
開催地: De HER、ロッテルダム(オランダ)
主催プロジェクト: FABRIX(Horizon Europe)
主なテーマ: 都市型テキスタイル産業、サーキュラーエコノミー、企業間連携、地域産業の再構築
参加: YEJapan/Circular E
参考資料
- FABRIX 公式サイト
- FABRIX Final Conference 公式プログラム
- De HER/Rotterdam Circulair
- Remake Society
- Fruitleather Rotterdam
- FABRIX Learning Hub
※本記事は現地での講演聴講、施設見学の内容をもとに、各機関の公式資料を参照して作成しています。登壇者の発言の要旨と筆者の考察を含みます。

