欧州がサーキュラーエコノミーを「暮らし」と「地域」の再設計として進める理由
2026年6月、ベルギー・ブリュッセルで開催された New European Bauhaus Festival 2026 に参加しました。
今回の参加を通じて強く感じたのは、欧州ではサーキュラーエコノミーが、単なるリサイクルや廃棄物対策の枠を超え、地域、建築、文化、暮らし、市民参加と結びついた大きな社会変革のテーマとして扱われ始めているということです。
そもそもバウハウスとは何か
New European Bauhausを理解するためには、まず「バウハウス」について少し触れる必要があります。
バウハウスは、1919年にドイツで始まった学校であり、建築、デザイン、工芸、アート、産業を結びつけた大きな運動でもありました。
単に美しい建物や家具をつくるためのものではなく、産業化が進む時代の中で、人々の暮らしをどう設計し直すのかを考えた取り組みだったと言えます。
人はどのように暮らすのか。
社会に必要なものを、どう使いやすく、美しく、みんなのものとしてつくるのか。
産業と日々の生活を、どう結び直すのか。
バウハウスは、そうした問いに向き合っていました。
私自身、少し前にドイツのデッサウを訪れ、バウハウスの歴史に触れる機会がありました。そこで感じたのは、バウハウスは単なるデザイン様式ではなく、時代の大きな変化に対して「暮らしそのもの」を見つめ直す試みだったということです。
なぜ今、欧州委員会がNew European Bauhausを進めるのか
今回のNew European Bauhausは、その考え方を現代の課題に重ね合わせたものだと感じました。
今、欧州は気候変動、資源制約、住宅不足、地域格差、都市と地方の分断、社会的包摂といった多くの課題に直面しています。
もちろん、これらに対しては法律や規制、技術、資金支援が必要です。
しかし、それだけでは社会は大きく動きません。
環境に良いことが、単なる負担や我慢として受け止められてしまえば、人々は前向きに参加しづらくなります。
制度をつくっても、地域の現場や市民の暮らしに届かなければ、実装は進みません。
そこで欧州委員会は、持続可能な社会への移行を、もっと人々の暮らしに近いものとして進めようとしているのだと思います。
New European Bauhausが掲げる言葉は、
Beautiful. Sustainable. Together.
美しく、持続可能で、ともにつくる。
この言葉は一見すると柔らかく聞こえます。
しかし、現地で多くの発表や展示を見ていると、非常に実践的な意味を持っていることが分かります。
環境に良いだけではなく、そこに住む人が心地よいこと。
地域の文化や記憶とつながっていること。
市民、自治体、企業、建築家、デザイナー、研究者が一緒に関われること。
そして、人々が「参加したい」と思える形にすること。
New European Bauhausは、欧州グリーンディールやサーキュラーエコノミーを、暮らしや地域の現場に落とし込むための重要な取り組みだと感じました。

フォン・デア・ライエン委員長のメッセージ
今回のオープニングでは、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長も登壇しました。
印象に残ったのは、欧州が今年、Circular Economy Actを進め、サーキュラーエコノミーをさらに加速していくという力強いメッセージです。
同時に、New European Bauhausの背景や、ボトムアップの重要性についても語られていました。
上から制度をつくるだけではなく、地域、市民、建築家、デザイナー、企業、自治体が一緒に動いていくこと。
現場から生まれる実践を大切にしながら、持続可能な社会への移行を進めていくこと。
この考え方は、日本にとっても非常に重要だと感じました。
日本でもサーキュラーエコノミーへの関心は高まっています。
一方で、まだ「廃棄物をどう減らすか」「再生材をどう使うか」「リサイクル率をどう上げるか」といった議論に寄りやすい面もあります。
もちろん、それらは大切です。
しかし欧州では、サーキュラーエコノミーがより広い意味で語られています。

登壇する欧州員会委員長 フォンデラ・ライエン氏
建物をどう使い続けるか。
使われなくなった空間をどう再生するか。
地域の素材や文化をどう次の価値につなげるか。
人が集まる場所をどうつくるか。
市民や地域の人たちがどう参加できるか。
このように、サーキュラーエコノミーは「資源の循環」だけでなく、「地域の価値の循環」として捉えられ始めています。
印象に残った3つの取り組み
会場では、多くのプロジェクトやスタートアップが紹介されていました。
その中でも、特に印象に残ったものを3つ紹介します。
1. Social Factory
使われていない場所を、人が集まる場所へ
Social Factoryは、アイルランドの取り組みです。
使われていない建物や空間を、地域の人々が集まり、働き、学び、交流できる場所へと変えていくプロジェクトです。
印象的だったのは、新しく何かを建てるのではなく、すでにある場所にもう一度役割を与えている点でした。
日本にも、空き家、空き店舗、廃校、使われなくなった工場や倉庫が数多くあります。
それらを単なる地域課題として見るのか。
それとも、地域の未来をつくる入口として見直すのか。
この視点は、日本の地方創生にも大きな示唆があると感じました。
2. ReThink Ukraine
復興の中に、循環の考え方を入れる
ReThink Ukraineは、ウクライナの取り組みです。
Circular Lab Ukraineを通じて、建築家、技術者、素材の専門家、自治体などをつなぎ、再利用、アップサイクル、バイオベース建材などを復興の中に取り入れようとしています。
ここで感じたのは、サーキュラーエコノミーは、余裕のある国だけが取り組む環境政策ではないということです。
限られた資源の中で、壊れたものをどう生かすのか。
地域をどう立て直すのか。
次の社会に必要な仕組みを、どう再建の中に組み込むのか。
この考え方は、日本の地域にも通じる部分があります。
日本の地方も、人口減少、空き家、産業の衰退、若者の流出などにより、静かな形で再建を必要としている地域があります。
循環は、環境対策であると同時に、地域を立て直すための考え方にもなり得ると感じました。

3. Magbago
捨てられる素材から、新しいファッションをつくる
Magbagoは、農業や食品から出る廃棄物を活用し、新しいテキスタイルをつくるファッションの取り組みです。
素材だけでなく、地域コミュニティ、職人、若者の教育、デジタルラベルによる情報の見える化ともつながっている点が印象的でした。
サーキュラーファッションは、単にリサイクル素材を使うだけでは十分ではありません。
どこから素材が来たのか。
誰が作ったのか。
どう長く使われるのか。
その価値をどう伝えるのか。
こうした視点は、日本の繊維産地、着物文化、工芸、地域の職人技術にもつながります。
日本には、長く使う、直す、仕立て直す、譲るという文化があります。
それを現代の言葉で伝え直し、地域産業や海外市場につなげていくことは、日本らしいサーキュラーエコノミーの可能性になると感じました。

地方創生とサーキュラーエコノミーは近い
今回のNew European Bauhaus Festivalで最も強く感じたのは、欧州ではサーキュラーエコノミーが、地域や暮らしに非常に近い言葉になっているということです。
法律や制度だけではありません。
リサイクル技術だけでもありません。
大企業だけの取り組みでもありません。
地域にある建物。
使われていない空間。
地元の素材。
文化や手仕事。
人が集まる場所。
暮らしの質。
市民の参加。
こうしたものをどう結び直すかが、サーキュラーエコノミーの大きなテーマになっています。
日本では、地方創生とサーキュラーエコノミーが、まだ別々に語られることが多いように感じます。
地方創生は、人口、観光、雇用、移住、地域産業の話。
サーキュラーエコノミーは、資源、廃棄物、リサイクル、環境政策の話。
しかし本来、この2つは非常に近いテーマです。
地域にあるものを見直すこと。
外から大量に持ち込み、使って、捨てる仕組みを変えること。
地域の中で価値が回る仕組みをつくること。
人が関わり続けられる場所をつくること。
文化や技術を次の世代につなぐこと。
これは、地方創生そのものでもあります。

欧州委員会 循環型経済担当 Jessika氏
日本型サーキュラーエコノミーへのヒント
サーキュラーエコノミーという言葉は、少し難しく聞こえるかもしれません。
しかし、本来はもっと身近なものだと思います。
使えるものを長く使う。
地域にあるものを見つめ直す。
使われなくなったものに、もう一度役割を与える。
人のつながりをつくる。
地域の誇りを取り戻す。
次の世代に受け渡せる形にする。
日本の地域には、その土台がすでに多くあります。
大切なのは、それを懐かしさだけで終わらせないことです。
古いものを守るだけではなく、今の社会に合う形で使い直す。
地域の文化を、次の産業や仕事につなげる。
行政、企業、住民、職人、若者が一緒に関われる形にする。
そこに、日本型のサーキュラーエコノミーの大きな可能性があると感じています。
New European Bauhausは、欧州の取り組みではあります。
しかし、そこにある考え方は、日本の地域、企業、自治体にとっても多くのヒントを与えてくれるものでした。
YEJapanでは、今後も欧州のサーキュラーエコノミーや地域実装の動向を現地で学び、日本の地域・企業・自治体の皆様に還元していきたいと考えています。


