Textiles ETP Conference 2026 参加レポート
先日、アムステルダム応用科学大学で開催された Textiles ETP Conference に参加しました。
Textile ETP(European Technology Platform for the Future of Textiles and Clothing)は、欧州委員会と連携し、繊維・アパレル産業の研究開発、イノベーション、標準化を推進する欧州最大級の産学官ネットワークです。
2004年の設立以来、企業、大学、研究機関、業界団体などが参画し、EUの研究開発戦略(Horizon Europe)や「Textiles of the Future」パートナーシップを通じて、欧州の繊維産業の将来像を形づくる中核組織です。
YEJapanは欧州拠点のCircular Eと連携して会員として活動しています。
Textile ETP Annual Conferenceは、Textile ETPが毎年開催する欧州を代表する国際会議です。
欧州委員会、繊維・アパレル企業、大学・研究機関、スタートアップ、標準化機関などが一堂に会し、サーキュラーエコノミー、デジタル製品パスポート(DPP)、AI、デジタル化、EU規制、次世代素材など、欧州の繊維産業の方向性を議論します。
単なる学会ではなく、今後のEU政策や国際標準化にもつながる議論が行われる場であり、日本企業にとっても欧州市場の将来を理解するうえで極めて重要な国際会議です。
2日間にわたり、欧州の繊維・ファッション産業に関わる企業、研究機関、政策担当者、スタートアップ、業界団体が集まり、デジタル化、AI、DPP(Digital Product Passport)、EPR(拡大生産者責任)、再販、サプライチェーンの透明化などについて議論が行われました。

アムステルダムで行われた会議登壇の様子
今回のカンファレンスで強く感じたのは、欧州ではサーキュラーエコノミーが単なる環境対応ではなく、産業そのものを再設計する議論として進んでいるということです。
特に繊維・ファッション産業では、これまでの大量生産、大量販売、大量廃棄を前提とした構造から、データを活用し、必要なものを必要なだけ作り、長く使い、修理し、再販し、最後には適切に回収・リサイクルする仕組みへと移行しようとしています。
DPPは規制対応ではなく、産業インフラである
初日の議論で中心となったのは、DPPでした。
日本ではデジタルプロダクトパスポート(DPP)というと、「EU規制に対応するための製品情報表示」や「QRコードを付ける仕組み」として理解されることが多いかもしれません。
誰がどの素材を使い、どこで加工し、どのような環境負荷があり、どのように修理・回収・再利用できるのか。
それらをデータとしてつなぐことで、初めて循環型のビジネスモデルが成り立ちます。
データはある。しかし、つながっていない
印象的だったのは、多くの登壇者が「データはすでに存在している」と話していたことです。
販売データ、返品理由、在庫情報、素材情報、製造記録、認証書類、顧客の声、修理履歴。
こうした情報は、多くの企業の中にすでにあります。
しかし問題は、それらが誰かの頭の中、Excel、PDF、メール、WhatsApp、個別のシステムの中に分散していることです。
すべての企業が大規模なIT投資を行う必要はありません。
ただし、自社が持つ素材・工程・認証・製品情報を、必要なときに共有できる状態にしておくことが求められます。
過剰生産を減らすには、リサイクルの前に「作り方」を変える必要がある
今回のカンファレンスで繰り返し出てきたテーマの一つが、過剰生産です。
予測して作る。
売れ残る。
値引きする。
利益が下がる。
さらに安い生産地に移す。
このループが、過剰在庫と廃棄を生み出してきました。
そのため、単にリサイクル技術を進化させるだけでは不十分です。
本当に必要なのは、売れないものを作らないための仕組みです。

AIやDXを活用した繊維産業の未来についても多く議論されていました
再販は「良いこと」ではなく、収益性あるビジネスにする必要がある
再販に関するセッションも印象的でした。
欧州では、再販や中古市場が拡大していますが、実務上はまだ多くの課題があります。
そこでAIやロボティクスを使い、再販プロセスを自動化する取り組みが紹介されました。
循環型ビジネスは、理念だけでは続きません。
修理、再販、リユース、リサイクルが経済的に成立して初めて、産業として広がります。
これは日本企業にとっても非常に重要な視点です。
中小企業に必要なのは、巨大なITシステムではない
中小企業や個人クリエイター向けのセッションでは、より現実的な議論が行われました。
DPPやデータ共有と聞くと、中小企業には大きな負担に感じられます。
CO2を何kg削減したという数字だけでは、人はなかなか動きません。
循環経済は、環境政策ではなく産業政策である
最終パネルでは、政策、産業、研究の立場から、欧州テキスタイル産業の今後について議論が行われました。
ここで最も重要だったのは、循環経済が環境政策ではなく、産業政策として語られていたことです。
欧州企業は、高い環境基準、労働基準、エネルギーコスト、排出コストを負担しています。
一方で、EU外から安価な製品が流入し、それらが同じ基準を満たしていない場合、持続可能な企業ほど不利になります。
そのため、欧州ではDPP、EPR、市場監視、輸入品へのルール適用、リサイクル材の需要創出などを通じて、産業全体の競争条件を整えようとしています。
おわりに
Textiles ETP Conferenceの2日間を通じて感じたのは、欧州の繊維・ファッション産業が、非常に大きな転換点にあるということです。
それは単なるデジタル化ではありません。
単なるサステナビリティ対応でもありません。
日本でも、繊維産業、地域産業、伝統工芸、中小製造業には多くの可能性があります。

ETP(European Technology Platform for the Future of Textiles and Clothing)年次会議
これから必要なのは、欧州規制への受け身の対応ではなく、日本の強みを国際的な産業連携につなげていくことだと感じています。

