DPP(デジタルプロダクトパスポート)欧州の今。―製品が“データで語る”時代へ
欧州在住のサーキュラーエコノミー・コンサルタントが現地から解説
いま、ヨーロッパでは「製品が自分の情報を語る」時代が始まりつつあります。
それを支える仕組みが、DPP(デジタル製品パスポート / Digital Product Passport)。
服やスマートフォン、建築資材に至るまで、製品がどんな素材でできているか、どのように修理・再利用できるかを、データで追跡できるようにするものです。
QRコードを読み取ると、材料構成や環境負荷、修理方法、リサイクルの手順が一目でわかる ― そんな未来を目指して、EUは2025年9月現在、前例のない実験に取り組んでいます。
1.背景:なぜ「製品の履歴書」が必要になったのか
大量生産・大量廃棄の社会では、使い終えた製品がどこへ行くのか、ほとんど見えません。
分解しようにも、どんな材料や化学物質が使われているのか分からず、修理も再利用も難しい。
この「情報の断絶」こそが、循環型経済(サーキュラーエコノミー)への最大の障壁です。
そこでEUは、2020年の「サーキュラーエコノミー行動計画(CEAP)」で、
「製品情報の透明化」を中心に据えました。
製品がどこで、どんな素材から、どんなプロセスで作られたか。
それを一貫して追跡できる仕組みが必要だと考えたのです。
その具体策として登場したのが、ESPR(持続可能製品のエコデザイン規則)。
2024年に正式発効したこの法律は、「EU市場に出る製品の多くにDPPを義務付ける」方向を示しています。
つまり、製品に“デジタル履歴書”を持たせるのです。
2.広がる波及業界:家電からファッション、建築へ
DPPは、これまでエネルギー効率製品を対象としてきた「エコデザイン指令」の延長線上にあります。
しかしESPRでは、その対象を一気にほぼすべての物理的製品へ拡大しました。
EUが2025–2030年にかけて優先的に進める分野は次のとおりです。
- 繊維・衣類:リサイクル率が低く、売れ残り廃棄が深刻。
- 電子・電気機器(EEE):修理しづらく、再資源化率も低い。
- 建築資材:環境宣言(EPD)やLCAとの整合が課題。
- タイヤ:摩耗粉によるマイクロプラスチック問題。
- バッテリー:最も先行。2027年からバッテリーパスポートが義務化予定。
さらに、家具、包装材、鉄鋼、アルミ、車部品などにも波及が見込まれています。
「製品情報を見える化する」という考え方が、産業の境界を越えて広がっているのです。
3. 現在の動き:EUの実験チーム「CIRPASS-2」
EUは、DPPをいきなり法で押し付けるのではなく、現場で実験してから標準化しようとしています。
その中心を担うのが、2024年に始動したCIRPASS-2プロジェクトです。
- 実施期間:2024〜2027年
- 参加:49の企業・大学・標準化機関
- 試験対象:服、電子機器、建材、タイヤなど
- 目的:
- DPPの「構造」や「通信の仕組み」を設計
- 実際に動かして問題を洗い出す
- EU標準化機関(CEN/CENELEC)に提案する


