EUが描く“捨てない社会”の新ルール― 廃棄物指令(WFD)改正が示す「循環設計」への転換 ―
2025年9月、EU(欧州連合)は「廃棄物枠組み指令(Waste Framework Directive, WFD)」を改正し、官報に掲載しました。
一見すると「廃棄物の法律」のように見えますが、今回の改正が意味するのは、
“廃棄物の扱い方”から“廃棄そのものを生まない設計”へのシフトです。
1. WFDとは ― 廃棄物から見た循環経済の基盤
WFDはEUにおける「廃棄物政策の骨格」です。
2008年に制定され、廃棄物をどのように定義し、どう扱うかを定めています。
その中核となるのが、次の“優先順位(ヒエラルヒー)”です。
① 発生抑制(ごみを出さない)
② 再使用(繰り返し使う)
③ リサイクル(資源として再生する)
④ エネルギー回収(燃料などに利用する)
⑤ 最終処分(焼却・埋立て)
日本の「循環型社会形成推進基本法」にも同じ考え方が明記されています。
しかしEUは、この原則を理念ではなく運用の中核に据え、経済の仕組みそのものを動かし始めました。
2. なぜ改正か ― “廃棄を前提にした経済”の限界
EUでは、家庭ごみの約8割が再利用されていません。
特に衣料と食品は廃棄量・環境負荷の両面で突出しています。
- 衣料:年間約1,200万トンが廃棄、その多くが焼却・輸出。
- 食品:年間約6,000万トンが廃棄、CO₂換算で約1億3,000万トン。
EUが打ち出したのは、「使い終わったあとの対応」ではなく、
「使い始める前に廃棄を防ぐ仕組み」。
つまり、廃棄物政策を設計段階からのアプローチに変えることでした。
3. 改正の焦点 ― 川上から循環を設計する
今回の改正では、特に衣料と食品の分野で新しいルールが導入されます。
衣料(テキスタイル)
- 各国は2027年までに衣料の分別回収制度を整備。
- 企業は販売後の回収・再利用・リサイクル費用を分担。
- 「再使用を最優先」とし、修理・再販・リメイクなどを奨励。
- 長く使える設計や再生素材を採用する企業は優遇。
食品
- 2030年までに、製造段階で10%、消費段階で30%の廃棄削減を法定化。
- 食品の再分配や寄付を制度的に支援。
- 各国がデータを報告し、EU全体で進捗を共有。
これらは、廃棄物を“処理する”制度ではなく、設計と消費の段階で循環をつくる制度です。
4. タイムラインで見る実施ロードマップ
| 年 | 内容 |
|---|---|
| 2025年9月26日 | 改正WFDが官報掲載(Directive (EU) 2025/1892) |
| 2025年10月16日 | 指令が正式発効 |
| 2027年10月まで | 加盟国が国内法を整備 |
| 2028年4月まで | 衣料の拡大生産者責任制度を稼働 |
| 2030年 | 食品廃棄物削減目標を達成 |
インサイト:出口規制から「循環設計」へ
WFDは本来、「廃棄物の処理」を定める川下の法律です。
ところが今回の改正では、設計・製造・販売といった川上の工程まで射程に入れ、
「廃棄されない構造を、最初から組み込む」ことを求めています。
この発想は、実はサーキュラーエコノミーの原点そのものです。
“廃棄物をどう処理するか”ではなく、“廃棄物が出ないように設計する”。
つまり、川下での対症療法から、川上での予防設計へ。
日本の制度はこれまで、
「廃棄物処理法」など出口管理(End-of-Pipe)を中心に発展してきました。
EUの改正WFDは、その真逆を行きます。
「廃棄物の法律」でありながら、設計・供給段階を変えようとしている。
ここに、循環経済の核心的な転換点が見えます。
5. まとめ ― 廃棄の法律が「設計の法律」へ変わるとき
改正WFDは、法の名前こそ“廃棄物指令”ですが、実質的には循環設計(Circular Design)を促す枠組みです。
設計の段階で製品の寿命や再利用のしやすさを考える。
それが「廃棄物法制の川上化」であり、サーキュラーエコノミーの起点です。
EUは今、廃棄物政策を通じて「ものづくりのあり方」そのものを動かしています。
日本もまた、出口規制の強化だけでなく、
“最初から捨てない設計”をどう組み込むか――その視点が求められています。
参考資料
- Official Journal of the European Union, Directive (EU) 2025/1892, 26 Sep 2025.
- Council of the EU, Press Release, 19 Feb 2025.
- European Environment Agency (2024), Textiles and the Environment in a Circular Economy.
- European Commission (2023), Food Waste Reduction Targets Impact Assessment.
次回予告
会員限定「テキスタイル編」では、
EUが実際に設計段階で“捨てない構造”をどう組み込むかを解説します。
著者プロフィール
山本英治(YEJapan,CEO / Circular E,Founder)
欧州・日本の製造業を中心としたサーキュラーエコノミー戦略コンサルタント。
オランダを拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなどの規制や9R施策への適用支援を行う。


