「挑戦を支え、未来をつくる」
Circular E — From Japan to the World
【期間限定】東欧ワルシャワで開催されたCircular Economyフォーラムレポート
エレン・マッカーサー財団が語った“循環の未来”――ワルシャワで感じた確かな潮流
European Sustainability Congress 2025 現地レポート/文:Circular E
1. ワルシャワで見た“循環の対話”
11月初旬、ポーランドの首都ワルシャワで開催されたEuropean Sustainability Congress 2025。会場には、ヨーロッパ各国から政策担当者や企業、研究者、そして若い起業家たちが集まり、朝から活気にあふれていました。その中でも特に注目を集めたのが、エレン・マッカーサー財団(Ellen MacArthur Foundation:EMF)によるセッションです。
登壇したのは、EMFのBiodiversity Leadであるマリアンヌ・ケトゥネン(Marianne Kettunen)氏。穏やかな口調でありながら、サーキュラーエコノミーが「自然と経済をどう再びつなげるか」という本質に踏み込む姿勢が印象的でした。
「サーキュラーエコノミーとは、単に素材のループを閉じることではありません。自然との関係をもう一度開くことなのです。」
2. EMFが提起した「自然から始まる設計」
マリアンヌ氏が繰り返し強調していたのは、「自然資本(Natural Capital)」という考え方でした。彼女によれば、経済の循環を本当の意味で成立させるためには、自然の再生を“設計の出発点”に置くことが欠かせないといいます。
「製品をつくる前に、まず“自然の再生にどう貢献できるか”を考えるべきです。」
EMFでは、世界各地で「Biodiversity & Circular Design」というプログラムを進めています。これは、素材調達から製造、使用、廃棄にいたるまでのすべての段階で、生態系にプラスの影響を与える設計思想を組み込む試みです。
具体的なアプローチとしては:
- 再生型農業(Regenerative Agriculture)との連携で、原材料の段階から自然を回復させること。
- 製品のモジュール化によって修理や再利用を容易にし、廃棄を減らすこと。
- 素材の多様化により、単一資源への依存を防ぎ、生態系への圧力を分散すること。
これらは単なるサステナビリティ施策ではなく、自然と経済を再統合するための設計のあり方そのものなのだと、彼女は語りました。
3. 「循環は経済の再設計」――価値観を変えるデザイン
セッションの後半で印象に残ったのは、マリアンヌ氏が「循環は技術の話ではない」と明言した瞬間でした。会場が静まり、誰もがその言葉を噛みしめていました。
「循環はテクノロジーで解決できる問題ではありません。私たちが“価値”をどう考えるか、その設計を見直すことなのです。」
彼女は続けて、製品の寿命やサービスの形、さらには「廃棄」という概念そのものを再設計する必要があると説明しました。EMFが現在進めている「Design for Biodiversity」プロジェクトでは、企業のデザイナーが生態系への貢献を考えながら製品を設計できるよう、ガイドラインが整備されています。そこには「再生可能素材」「修理のしやすさ」「分解性」「多様性への配慮」といった評価軸が含まれています。
4. 日本の現場から感じたこと
セッションの終了後、私はマリアンヌ氏と直接話をする機会をいただきました。日本の現状や、地方で進む循環型の取り組みについて紹介すると、彼女は穏やかにうなずきながら、こう言いました。
「日本の動きにはとても関心があります。ぜひ、これからの進展を教えてください。」
EMFが日本の地域循環や製造業の実践に関心を寄せていることを知り、心強く感じました。世界的な議論と日本の現場の挑戦が少しずつ重なり始めている――その実感がありました。
5. なぜ“循環”なのか――原点に立ち返って
そもそも、なぜ私たちは「循環経済」を目指すのでしょうか。
それは、自然資本(Natural Capital)の限界がすでに目の前にあるからです。これまでの線形型経済では、資源を使い、作り、捨てることが前提でした。しかし、地球の再生力を超えるスピードで資源を消費することは、もはや成り立たなくなっています。
EMFが繰り返し語っていたように、循環経済は「終着点」ではなく、自然を再生するための手段です。
つまり、“循環”とはリサイクルや効率化のことではなく、自然のリズムと経済のリズムを再び重ね直すこと。その視点に立てば、製造現場の改善やサプライチェーンの再設計も、すべて「再生のためのデザイン」へとつながっていきます。
「私たちは減速する必要はありません。ただ、正しい方向に舵を切ることが大切なのです。」
マリアンヌ氏のこの言葉が、会場を包み込みました。持続可能性を「制約」ではなく「創造の方向性」として捉える姿勢に、強い希望を感じました。
6. まとめにかえて
ワルシャワでのセッションを通して、改めて感じたのは、循環とは自然を中心に据えた経済の再設計であるということです。
技術や制度の議論を超えて、私たち一人ひとりの価値観とデザインのあり方を問い直す機会でもあります。
日本の製造業にとっても、これは他人事ではありません。設計、素材、購買、品質、そして経営。どの段階においても、自然の再生を前提に考える視点が求められています。
EMFが発信する「Regenerative by Design(再生を生み出す設計)」という考え方は、これからの企業競争力にも直結するテーマです。
文責:Circular E/European Sustainability Congress 2025 現地取材より
