欧州テキスタイル循環の現在地 ― 分別回収の義務化から、地域産業としての実装へ

2026年10月14日、ベルギー・ブリュッセルで開催された「European Week of Regions and Cities 2026(EURegionsWeek)」に参加しました。

EURegionsWeekは、欧州の地域・都市政策をテーマに、欧州委員会、地方自治体、地域産業、研究機関などが集まる国際イベントです。

今回、特に注目したのは、欧州における繊維廃棄物の分別回収と、地域のサーキュラーエコノミー実装に関するセッションです。

「Making textile collection work locally: the role of municipalities in Europe’s circular transition」

カタルーニャ(スペイン)、ゴンドマール(ポルトガル)、プラート(イタリア)の自治体関係者や政策担当者が登壇し、繊維廃棄物の回収制度、選別・リサイクルの課題、財政負担、地域産業との連携について議論しました。

今回の議論を通じて強く感じたのは、欧州のテキスタイル・サーキュラーエコノミーが、規制の整備から、その制度を地域でどう機能させるかという実装段階に進んでいることです。

1.分別回収を義務化しても、循環型経済は成立しない

EUでは2025年1月から、加盟国に対して使用済み繊維製品の分別回収体制の整備が求められています。

しかし、回収後の再利用・リサイクルの仕組みが十分に整っているわけではありません。

欧州環境庁(EEA)によると、2022年のEUにおける家庭由来の繊維廃棄物の分別回収率は15%弱でした。残りの約85%は混合廃棄物として排出され、再利用やリサイクルの機会を失っています。

こうした状況を改善するために分別回収が義務化されましたが、実際に回収量が増加すると、別の問題が浮かび上がっています。

それが、選別施設の処理能力不足と、回収される衣類の品質低下です。

特にファストファッションの普及によって、再利用や素材リサイクルが難しい製品が増加しています。

回収すればするほど、選別に必要な人員、設備、保管スペース、処理費用が増えるという構造です。

カタルーニャ自治体協会のMeritxell Budó氏は、一部の選別施設では受け入れ能力が限界に達しており、回収した衣類を受け入れられない状況も発生していると説明しました。

つまり、回収量を増やすことと、資源として循環させることは同じではありません。

今回のセッションでは、この問題が繰り返し指摘されました。

2.ポルトガル:20年以上の衣類回収から、自動選別技術の実証へ

ポルトガルのゴンドマール市では、2004年から使用済み衣類の回収を行っています。

市内に回収コンテナを設置し、衣類、靴、家庭用繊維製品などを回収・選別してきました。

しかし、長年の回収実績がある自治体でも、回収品の品質低下や選別能力の不足が問題となっています。

これに対して、ポルト都市圏の8自治体による広域廃棄物管理組織LIPORでは、繊維選別の技術実証が進められています。

2025年9月には、ポルトガル初の繊維自動選別パイロット施設が公開されました。

この施設は年間約50トンの処理能力を持ち、素材構成や色に応じて14種類のカテゴリーに選別する仕組みです。

手作業と自動選別を組み合わせ、素材識別、付属品の除去、リサイクル原料化などを検証しています。

同施設は、ポルトガルの産学官共同プロジェクト「Be@T(Bioeconomy at Textiles)」の一環として整備されました。

注目すべきは、技術開発だけでなく、回収方法そのものを見直していることです。

街頭コンテナによる回収に加え、戸別回収などを通じて、回収品の品質向上と、その後の再利用・リサイクルの効率化を目指しています。

回収から選別、再資源化までを一体的に検証する動きが始まっています。

3.イタリア・プラート:地域産業そのものを循環型経済の実証拠点へ

今回のセッションで、特に印象的だったのがイタリア・プラート市の取り組みです。

プラートは、100年以上にわたって繊維の再利用・再生を行ってきた地域です。

人口約20万人の都市に、約7,000社の繊維・ファッション関連企業が集積しています。

この地域では、繊維の選別、再生加工、紡績、製織、染色、仕上げなど、多様な工程が地域内でつながっています。

プラートにとって、サーキュラーエコノミーは近年生まれた概念ではなく、長年にわたって形成されてきた産業構造の一部なのです。

2026年7月には、新たな繊維資源循環拠点「Textile Hub」が開設されました。

約3,130万ユーロを投じた施設で、年間最大33,000トンの繊維製品・繊維くずの処理能力を計画しています。

AIや近赤外分光技術(NIR)を活用して素材を選別し、再利用やリサイクルにつなげる仕組みです。

しかし、プラートの取り組みは設備投資だけではありません。

同市は、EUの新たな繊維政策を実際の産業現場で検証する「Living Lab(実証拠点)」となる構想を提案しています。

欧州では、エコデザイン、デジタル製品パスポート(DPP)、拡大生産者責任(EPR)、End-of-Wasteなど、繊維製品に関する制度の整備が進んでいます。

一方、新しい制度が既存の再生繊維産業にどのような影響を与えるのかについては、実際の製造現場での検証が不可欠です。

プラートは、自治体、企業団体、労働組合などが連携する地域協議体を通じて、こうした課題に対応しようとしています。

さらに、今回のEURegionsWeek開催期間中には、プラート市の代表団が欧州委員会のDG GROWやDG ENVの担当者と協議し、地域産業の立場から政策提案を行っています。

ここで興味深いのは、地方自治体がEUの規制を受け入れるだけの存在ではなく、政策の実効性を検証するパートナーとして関与しようとしていることです。

地域の既存産業を活用しながら、新しい循環型経済の仕組みを構築するという意味で、非常に参考になる事例でした。

4.カタルーニャ:自治体の財政負担と、産業化への支援

カタルーニャ廃棄物庁のFrancesc Giró氏からは、州政府による政策と実証支援について説明がありました。

カタルーニャでは2022年に「Pact for Circular Fashion(循環型ファッション協定)」が始まり、2026年には2030年までを対象とする第2次協定が承認されています。

行政、繊維メーカー、廃棄物管理事業者、大学、研究機関、社会的企業などが参加する官民連携の枠組みです。

目標には、繊維廃棄物の発生抑制、分別回収率の向上、再利用・リサイクルの拡大が掲げられています。

具体的には、2029年までに繊維廃棄物の分別回収率を30%に引き上げることなどが目指されています。

一方、現場では新しい制度に伴う費用負担も発生しています。

回収、輸送、選別、保管、啓発活動などの費用を、地方自治体が負担しているのです。

こうした状況を受け、カタルーニャ州では2026年から、分別回収された繊維廃棄物に対する自治体への税収還元額を引き上げています。

一般的な自治体では1トン当たり50ユーロ、農村部では最大75ユーロが設定されています。

これはEPR制度が本格的に整備されるまでの暫定的な支援策です。

さらに、回収した繊維を新しい糸や製品に戻すための技術実証・産業化への支援も進められています。

つまり、回収システムだけではなく、再生原料を使用する産業や市場の形成まで政策の対象になっています。

5.自治体が抱える根本的な問題:生産者と廃棄物管理者の責任

今回の議論で共通していたのは、自治体だけでは繊維廃棄物の問題を解決できないという認識です。

衣類は世界各地で生産され、ECプラットフォームなどを通じて大量に販売されています。

しかし、使用済み衣類になった時点で、その処理責任は地域の自治体や廃棄物管理事業者に集中します。

特に、素材構成が複雑な混紡製品や、短期間の使用を前提とした低価格衣料品では、再利用・リサイクルが難しくなります。

自治体は製品の設計や素材を決定できないにもかかわらず、その製品の使用後の処理を担わなければなりません。

この構造を改善するために重要になるのが、EPR(拡大生産者責任)です。

EUでは2025年10月に改正廃棄物枠組み指令が発効し、繊維・履物を対象とするEPR制度の共通ルールが導入されました。

加盟国には2028年4月までに制度を整備することが求められています。

この制度は、単に回収費用をメーカーへ移転するものではありません。

耐久性やリサイクル可能性などを考慮した費用負担を通じて、製品の設計段階から循環性を高めることも目指しています。

今回の登壇者からは、素材情報の透明性、製品の長寿命化、修理・再利用の促進などが重要な課題として挙げられました。

6.日本への示唆:リサイクル技術だけでなく、地域産業の仕組みをどう設計するか

今回の議論を日本の現状と重ねると、考えるべきことが多くあります。

日本でも、使用済み衣類の回収、繊維リサイクル、再生素材の開発など、さまざまな取り組みが行われています。

しかし、回収された素材をどのように選別し、誰が再生原料として利用し、どのような製品として市場へ戻すのか。

これらがつながらなければ、循環型経済を継続的な事業として成立させることは難しくなります。

特に重要なのは、個別の技術や企業だけで完結させようとしないことです。

欧州では、自治体、企業、研究機関、回収・選別事業者が地域単位で連携する仕組みが形成されています。

プラートの事例は、その一つの形を示しています。

日本にも、福井、石川、愛知、岡山など、繊維関連の技術や企業が集積する地域があります。

それぞれの地域に存在する産業基盤を、回収・再生・製造・市場形成と結びつけることができれば、地域産業としてのサーキュラーエコノミーを構想する余地があります。

また、ポルトガルやカタルーニャの事例からは、選別技術、トレーサビリティ、再生原料の品質管理などにおいて、今後も技術革新が必要であることが分かります。

日本の製造業が持つ技術や現場での改善能力を、欧州の地域産業や実証プロジェクトと結びつけることも、日欧連携の一つの方向性だと考えています。

7.現地参加を通じて感じたこと

今回のEURegionsWeekで印象に残ったのは、繊維廃棄物の問題が、環境対応だけでなく、地域産業、公共サービス、財政負担、技術開発、社会的雇用など、多くの要素と結びついていることです。

回収を増やすこと自体が最終目的ではありません。

その先に、再利用や修理によって製品の価値を維持する仕組みがあり、再利用できないものを資源へ戻す産業があり、さらにその再生原料を使う市場が必要です。

そして、それぞれの活動が経済的に成立しなければ、継続的な循環システムにはなりません。

今回の議論から見えてきたのは、**「廃棄物をどう処理するか」だけではなく、「廃棄物を生み出しにくく、資源の価値が維持される経済をどう構築するか」**という課題です。

これは、これまで欧州のサーキュラーエコノミー関連イベントに参加する中で感じてきた、環境対応から経済・産業システムの再設計へという大きな流れとも重なります。

YEJapanでは、欧州のCircular Eとの連携を通じて、こうした政策や実証事例を日本の製造業、自治体、地域産業に紹介するとともに、日本と欧州をつなぐ具体的な事業機会や共同実証の可能性を探っていきます。


参加イベント情報

  • イベント:European Week of Regions and Cities 2026
  • 開催期間:2026年10月12日〜14日
  • 開催地:ベルギー・ブリュッセル
  • 参加セッション:Making textile collection work locally: the role of municipalities in Europe’s circular transition
  • 開催日:2026年10月14日
  • 参加者:YEJapan/Circular E

参考資料

※本記事は現地参加時の講演内容をもとに、各機関の公表資料を参照して作成しています。講演での説明と、公開資料に基づく補足・考察を含みます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です