欧州デジタル業界の最前線から学ぶ。―ReLondon Week 参加レポート Vol.2

The digital workplace: a key opportunity for your organisation’s green strategy


イベント CEweek2025とは

2025年10月、ロンドンで開催された「ReLondon Week 2025」。
このイベントは、循環型都市を目指すロンドン市が主導し、行政、企業、大学、スタートアップが集う、サーキュラーエコノミー実践の国際的な交流の場です。

主催するReLondon(リロンドン)は、ロンドン市とロンドン廃棄物局によって設立された公的組織で、「Waste Nothing, Make Things Last(無駄をなくし、ものの命を延ばす)」をミッションに掲げています。市民・企業・行政をつなぎながら、都市全体での循環経済の実現を進めています。

今年のテーマは「From Compliance to Opportunity(規制対応から価値創造へ)」。
EUで相次いで施行されるサステナビリティ関連法に対し、どう適応し、どう新しい価値を生み出すかが議論の中心となりました。

はじめに:デジタル化は「環境投資」でもある

今回注目を集めたワークショップのひとつが、「The digital workplace: a key opportunity for your organisation’s green strategy」

一見、ITやオフィスの効率化に聞こえるテーマですが、実は企業のグリーン戦略の中核をなすものでした。
講師陣は、サステナビリティ認証、再生デバイス流通、循環調達を専門とする実務家たち。彼らの共通メッセージは、「職場のITを変えることが、循環経済への一番早い一歩になる」というものでした。


デジタルワークプレイスが生む「見えない環境負荷」

私たちが日々使っているPCやスマートフォン、サーバー、周辺機器。
それらの製造には膨大な資源とエネルギーが使われています。
実は、IT機器のライフサイクル全体で発生する環境負荷のおよそ半分以上が製造段階に集中しているといわれます。

つまり、「長く使う」「再生品を使う」「回収して再資源化する」ことが、
単なるコスト削減ではなく実質的な脱炭素対策にもなるのです。

ワークショップではこの点を数字で示しながら、
「新品を1台買うより、再生端末を導入するほうが体化炭素排出量は1/10以下」というデータも共有されました。
このインパクトは、製造業や自治体にも共通する重要な示唆です。


企業が動くための最初の一歩:調達から変える

議論の中で最も強調されたのは、「調達こそが最大のレバー」という点でした。
再生機器や再製造品(Refurbished / Remanufactured)を、
年度ごとのRFP(調達仕様書)に組み込み、サプライヤー評価に反映させること。

その一歩で、調達方針が“循環型”に変わり、社内の理解も自然に広がっていく。
たとえば、

  • RFPに「再生品の比率」「テイクバック(回収)目標」「データ消去証跡の提出」を必須項目にする。
  • 回収・再資源化のSLA(サービス品質基準)を契約書に明記する。

このような施策を取る企業が欧州では急増しています。
日本でも、“新品前提の購買”を見直すだけで循環が始まるということを、強く感じました。


セキュリティと循環は両立できる

再生端末の導入や再利用において、もっともよく聞かれる懸念が「セキュリティ」です。
しかし、登壇者たちは口をそろえて「それは仕様設計の段階で解決できる課題」と断言します。

たとえば、再生機器の導入を決める前に、

  • データ消去の方式と証跡を定義する
  • 台帳・資産管理をクラウド化する
  • 再配備をゼロトラスト構成内で行う

こうした前提を最初に設計しておくことで、
循環の仕組みを「セキュリティと矛盾しないもの」に変えられます。
循環を“後付け”するのではなく、最初から組み込む発想が重要だと感じました。


見えないボトルネック:認知のギャップ

セッションの後半では、参加者アンケートが紹介されました。
「職場のIT機器は、自社のサステナビリティに関係していますか?」という質問に対し、
なんと55%が「いいえ」と回答。

この結果は、循環経済の実装が“技術”の問題ではなく、
認識と組織文化の問題であることを示しています。
講師の一人は「社員がPCの更新時期を“新しい機能”ではなく、“環境影響”の観点から考えるようになれば、それだけで変革は進む」と語っていました。


小さく始めて、複製する

日本の企業にとっても、循環型デジタルへの移行は決して遠い話ではありません。
むしろ、90日単位で小さく試し、社内で横展開するのが現実的なアプローチです。

たとえば、

  • まず1部署・1機種から再生端末を導入し、満足度やコストを記録する。
  • 回収・再配備のルールをつくり、社内でFAQ化する。
  • KPI(回収率・再生比率・使用年数・体化炭素削減量)を見える化する。

成功事例をテンプレート化すれば、次の部署へ展開する際の障壁が一気に下がります。
循環経済の実装は、「完璧な計画」よりも反復と学習で前進するプロセスだと改めて感じました。


これからの循環型オフィスへ

ReLondonのセッションを通じて見えてきたのは、
循環は特別なことではなく、日常業務の延長にある」という現実でした。

デジタルワークプレイスは、その入り口として最適です。
調達・回収・測定を一体化することで、環境負荷を減らしつつコストも下げ、
社員体験(Employee Experience)さえ向上させることができる。

サステナビリティを経営課題として掲げるなら、
まずは自社のパソコンとサーバーラックの中から、“次の循環”を始めてみませんか。


出典

  • Circular Economy Week 2025(#CEweek2025)|主催:ReLondon(2025年10月20–26日)
  • セッション:「The digital workplace: a key opportunity for your organisation’s green strategy」
    Closing the Loop ほかパートナー登壇
    https://relondon.gov.uk/ceweek2025

著書プロフィール

山本 英治(YEJapan, CEO/ Circular E, Founder)
製造業に深い造詣を持ち、現在は欧州・日本の製造業や自治体におけるサーキュラーエコノミー戦略を実行するビジネスモデルデザイナー。
オランダと東京を拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなど欧州の規制適用や9R施策導入など仕組み化や実装支援を行う。

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