自動車部品メーカーの「リマン(再生製造)」とは何か

― IAMの構造と規制背景から見る、これからの循環モデル ―

近年、サーキュラーエコノミーの文脈で「リマン(Remanufacturing:再生製造)」という言葉を耳にする機会が増えています。
特に欧州では、自動車部品メーカーが本格的にリマンを事業として展開しており、その動きは年々加速しています。

本記事では、

  • IAM(独立系アフターマーケット)の構造
  • 部品メーカーのリマン事業モデル
  • 欧州規制の背景
    を整理しながら、実務目線でできるだけ具体的に解説します。

私は前職で自動車の生産工程に関わっていましたが、量産設計や工程設計の観点から見ても、リマンは単なるリサイクルではなく「もう一つの製造プロセス」だと感じています。


1. まずIAMとは何か?

IAMとは Independent Aftermarket(独立系アフターマーケット) の略です。

自動車部品の流通は大きく分けて2つあります。

① OES(純正補修ルート)

OEM(完成車メーカー)のディーラー網を通じて販売される純正部品。

② IAM(独立系)

部品メーカー → 卸 → 修理工場 という独立流通網。

欧州ではIAMが非常に成熟しており、ZFやBosch、ValeoなどはIAM経由でリマン製品を展開しています。

IAMが発達している理由は、

  • 車齢が長い(欧州平均12年以上)
  • 修理文化が根付いている
  • ディーラー以外での整備比率が高い
    という市場特性があります。

このIAMの存在が、リマン事業を成立させる重要な基盤になっています。


2. リマンとは何か?(リビルトとの違い)

リマンは単なる「中古再利用」ではありません。

リマンの工程

  1. 使用済み部品(コア)回収
  2. 分解
  3. 洗浄
  4. 摩耗部品の交換
  5. 検査・再組立
  6. 新品同等の品質保証で再販売

工程設計として見ると、
通常の量産ラインとは異なり「ばらつきのある個体を標準化工程に戻す」作業になります。

量産現場をご存じの方なら分かると思いますが、
ばらつきを前提にした工程設計は非常に難易度が高いです。

そのため、リマンは高度に工業化された製造ビジネスと言えます。


3. どんな部品がリマンされているのか?

具体的なメーカー例を挙げます。

■ Bosch(Bosch eXchange)

  • スターター
  • オルタネーター
  • インジェクター
  • 高圧燃料ポンプ
  • ECU

小型電装品が中心です。


■ ZF(ZF REMAN)

  • AT/MTトランスミッション
  • トルクコンバーター
  • ステアリングギア
  • クラッチ

高付加価値の大型部品が中心です。


■ BorgWarner

  • ターボチャージャー

ターボは単価が高く、リマン適性が高い部品の代表例です。


■ Cummins(商用車)

  • エンジン丸ごとリマン

商用車市場はTCO(総保有コスト)重視のため、リマン比率が非常に高いです。


4. リマンの事業モデル構造

リマンは、単なる環境施策ではありません。
明確なビジネスモデルがあります。

① コア回収(逆物流)

顧客は新品購入時に「デポジット」を支払い、
使用済み部品を返却すると返金されます。

この仕組みによって回収率を高めます。

ZFはコア返却ガイドラインまで整備し、
回収プロセス自体を標準化しています。


② コスト構造

新品製造との比較で見ると:

項目新品リマン
原材料多い大幅削減
エネルギー高い低い
工数標準化個体差対応

材料費を抑えられる一方、
診断・分解・検査の技術力が必要になります。


③ 価格ポジション

リマン製品は、
新品より安く、
無保証の中古より高い。

この「中間価格帯」がIAM市場で強いポジションを持ちます。


5. なぜ欧州で進んでいるのか?(規制背景)

欧州ではELV(End-of-Life Vehicles)規制が強化されています。

ポイントは:

  • 再使用・再製造の優先順位を明確化
  • 再生材比率の引き上げ
  • 解体しやすい設計(Design for Disassembly)
  • デジタル部品パスポート構想

単なるリサイクルではなく、
「部品としてもう一度使う」ことが優先されます。

この規制環境が、
部品メーカーにリマンを事業として育てるインセンティブを与えています。


6. 日本メーカーの現状

日本でもリビルト市場は存在しますが、

  • IAMが欧州ほど強くない
  • OEM主導の補修構造
  • 回収スキームが弱い

といった構造差があります。

そのため、
工場内の廃棄物削減は進んでいても、
製品循環としてのリマン事業はまだ伸び代がある領域です。


7. リマンは「もう一つの製造業」

生産現場にいた立場から見ると、
リマンは

  • 設計段階での分解性
  • ボルト点数
  • 異材接合の扱い
  • 摩耗予測
  • モジュール設計

といった思想が将来的な競争力を左右する分野だと感じます。

つまり、リマンは後工程ではなく、
設計思想の問題でもあります。


8. これからの論点

今後重要になるのは:

  • EV部品(インバーター、eアクスル)のリマン可能性
  • ソフトウェア更新と保証の扱い
  • デジタルIDによるトレーサビリティ
  • ELV規制対応と材料クローズドループ

です。


まとめ

リマンは、
環境配慮型の取り組みというよりも、

  • IAM構造
  • 逆物流設計
  • 工業的再生プロセス
  • 規制ドライバー

が組み合わさった「第二の製造ビジネス」です。

欧州ではすでに確立された市場になっていますが、
日本企業にとってはこれから伸びる余地が大きい分野でもあります。

今後、EV化と規制強化が進む中で、
「どの部品を、どう循環させるか」という設計思想そのものが問われていくのではないでしょうか。

著書プロフィール

山本 英治(YEJapan, CEO/ Circular E, Founder)
製造業に深い造詣を持ち、現在は欧州・日本の製造業や自治体におけるサーキュラーエコノミー戦略を実行するビジネスモデルデザイナー。
オランダと東京を拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなど欧州の規制適用や9R施策導入など仕組み化や実装支援を行う。

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