欧州イベントレポート⑱【ドイツ マンハイム発】欧州産官学によるテキスタイル循環の現状のリアルと課題
ドイツ・マンハイムで開催された「Go Circular 2026」に参加してきました。
欧州各国の政策担当者、企業、研究機関、NGOが集まり、循環経済の実装について議論する場です。
初日のテーマは「テキスタイル(繊維)」。
結論から言うと、非常に印象的だったのは次の一言に集約されます。
テキスタイル循環は、技術の問題ではない。システムの問題である。
本稿では、現地で感じた「今、欧州で何が起きているのか」を整理してみたいと思います。
■ そもそも、ほとんど循環していないという現実
まず共有されていた前提があります。
それは、
テキスタイルの循環は、まだほとんど実現していないということです。
- 回収されても再利用・輸出・焼却が多い
- 本格的な「繊維→繊維」の循環はごく一部
- 廃棄量は増え続けている
つまり、私たちが思っている以上に、現実はまだ線形経済の延長線上にあります。
ここを正確に認識することが、すべての出発点になっていました。

■ ボトルネックは「回収」ではなく「分別」
今回の議論で繰り返し出てきたのが、
問題は集めることではなく、分けることだ
という点です。
回収自体はすでに一定程度できている。
しかしその先で、
- 再利用できるもの
- 機械リサイクル向け
- ケミカルリサイクル向け
- 処理困難なもの
に分けられない。
その結果、価値の高いリサイクルに回らず、低価値利用や廃棄に流れてしまう。
つまり、
分別精度=循環価値の上限
という構造です。
この分野では、AI・光学選別・データ連携などの技術が急速に導入され始めていますが、まだスケールには至っていません。
■ 技術はある。でも「スケールしない」
もう一つの重要なポイントは、
「技術はすでに存在している」という点です。
- メカニカルリサイクル
- ケミカルリサイクル
- 酵素分解
これらはすでに実証段階を超え、パイロットに入っています。
それでも進まない理由は明確です。
- 原料が安定供給できない
- 品質がバラつく
- バージン材より高い
- 売り先が保証されない
つまり、
技術ではなく、事業として成立しない
これが本質的な壁でした。

■ EPRは「コスト」ではなく「市場設計」
欧州では現在、テキスタイルEPR(拡大生産者責任)が本格導入に向かっています。
ここで重要なのは、EPRの捉え方です。
多くの企業は「負担金」として見がちですが、現地ではこう言われていました。
EPRは徴収制度ではなく、システム構築制度である
つまり、
- 回収インフラ整備
- 分別高度化
- リサイクル投資
- データ整備
に再投資されて初めて意味を持つ。
単なるコストではなく、
循環経済の基盤そのものを作る仕組みです。
■ DPP(デジタル製品パスポート)の本質
もう一つのキーワードがDPPです。
これも誤解されやすいですが、単なる「表示」ではありません。
DPPは、
- 規制適合の証明
- サプライチェーン管理
- リサイクル時の素材情報
- 市場全体の透明性
を支える「共通データ基盤」です。
現地では、
DPPがなければ、循環はスケールしない
という認識がほぼ共有されていました。
■ 最大の論点:「市場がない」
最終セッションで最も議論が盛り上がったのがここです。
リサイクル材の“保証市場”をどう作るか
いくら回収しても、いくら技術があっても、
売れなければ成立しない
そのために必要なのは、
- 再生材利用義務
- 長期調達契約
- ブランドのコミットメント
- 価格差を埋める制度
です。
これはプラスチックで一度失敗している領域でもあります。
「作ったが売れない」という状況を、テキスタイルで繰り返してはいけない。
その危機感が非常に強く感じられました。
■ 消費者は問題ではない
意外だったのは、消費者に対する見方です。
- 修理したい人は多い
- 寄付もすでに一般的
- 環境意識も一定ある
それでも行動が進まない理由は、
- 面倒
- どこに持っていけばいいかわからない
- 情報が複雑
つまり、
問題は意識ではなく、利便性
この視点は、日本でも重要だと感じます。
■ 日本企業への示唆
今回の議論を踏まえると、日本企業にとって重要なのは明確です。
- 技術ではなく「サプライチェーン設計」を考える
- DPPをIT対応ではなく「事業基盤」として捉える
- EPRをコストではなく「製品戦略」として考える
- 分別・データ・回収を含めた全体設計に入る
そして何より、
欧州の動きは「規制対応」ではなく「産業構造の再設計」である
という認識が必要です。
■ 最後に
今回の議論を一言でまとめると、
循環経済は、“いいこと”ではなく、“設計の問題”である
技術も、制度も、企業も、消費者も、すべてが揃って初めて回り始める。
そして今、欧州はそれを本気で「実装フェーズ」に移そうとしています。
次回は、Day2(ビジネスモデル・政策・投資)の内容を整理していきます。
著書プロフィール
山本 英治(YEJapan, CEO/ Circular E, Founder)
製造業に深い造詣を持ち、現在は欧州・日本の製造業や自治体におけるサーキュラーエコノミー戦略を実行するビジネスモデルデザイナー。
オランダと東京を拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなど欧州の規制適用や9R施策導入など仕組み化や実装支援を行う。


