都市は循環の実験場へ ― 欧州が描く「Circular Urban Futures」のリアリティ
European Circular Economy Stakeholder Conference 2025 より
2025年11月にワルシャワで開かれたCirculareWeek2025のイベント「Building a Sustainable Urban Future」に日本人として唯一参加してきました。都市モデルの未来について詳しくレポートしていきたいと思います。
Keynote & Panel: “How to Accelerate Circular Transition in Urban Environments”
登壇者:
Silke Schleiff(TUTECH Innovation GmbH)
Britta Peters(Hamburg Institute for Innovation, Climate Protection and Circular Economy)
Magdalena Walerysiak-Castillo(Catalonia Trade & Investment)
モデレーター:Dorota Bartosz(PLGBC)
■「自然に廃棄物は存在しない」― 出発点は、根源的な問い直しから
「自然界には無駄は存在しない。廃棄とは、人間が発明した概念である」
TUTECHのSilke Schleiff氏は、講演の冒頭でそう語りました。
過去12か月は観測史上最も暑い一年であり、気候危機の影響はすでに都市の日常にまで及んでいます。
再生可能エネルギーや省エネ技術は不可欠ですが、それらが解決できるのは地球温暖化の約55%にすぎません。
残る45%は、資源採掘・消費財・食品・建設といった、サプライチェーン全体に埋め込まれた構造的課題。
「この45%にこそ、循環経済のポテンシャルがある」とSchleiff氏は強調します。
そして、循環経済は単に廃棄物を減らすための仕組みではなく、“経済の再設計”であり、暮らしのあり方の再定義でもあると。

EU委員会の都市部門をリードするLucie Blondel氏 (The European Commission’s Circular Cities and Regions Initiative)
■ 都市は“問題”ではなく“鍵”である
続いて登壇したハンブルク市のBritta Peters氏は、都市をめぐる現実をこう描きました。
「都市は地球の陸地のわずか2%しか占めませんが、天然資源の75%を消費し、
世界の廃棄物の半分以上を生み出しています。
しかし同時に、都市こそが循環経済の実装を加速させる“最良の実験場”なのです。」
都市には、人材・資源・技術・政治・文化が凝縮されています。
これらをうまく接続すれば、社会のミクロからマクロまで、すべての層に循環の波を起こせる。
そしてPeters氏は、「都市はエコシステムである」という視点から、
都市循環のデザインを5層構造の“クッキー”に例えました。
■ 「5つのクッキー」で描く都市循環のデザイン🍪 1. 素材と製品の層(Object Layer)
ハンブルクでは、毎年1,000万トン以上のオフィス家具が焼却されています。
これを“循環オフィスプロジェクト”として再製造・再販する取り組みが進行中。
「廃棄を減らすことは、設計を変えることから始まる」という哲学のもと、
再利用を前提としたデザインが企業調達の基準に組み込まれています。

TUTECHのSilke Schleiff氏の主張する廃棄しない設計の重要性
🍪 2. インフラの層(Infrastructure Layer)
Silke氏は、循環都市における“見えないインフラ”の重要性を強調しました。
データとAIを用いたスマート廃棄物管理システムでは、
住宅地に収集車が来る時間・頻度を最適化し、交通量と排出ガスを削減。
「人々が意識せずとも参加できる循環システム」を設計する。
それが都市の行動変容を支える基盤になるのです。
🍪 3. 産業・サプライチェーンの層(Industry Layer)
Peters氏が示したのは、産業間の“共生(industrial symbiosis)”です。
「ある企業の廃棄物が、別の企業の資源になる」構造を、
データと協定でつなぎ、都市単位の産業ネットワークとして再構築する。
EUのHorizon Europeプログラムでは、
中小企業の循環移行を支援するためのカスケードファンディングも進行しています。
🍪 4. 文化と市民の層(Civic Layer)
遊休建物を改修し、修理・再販・教育を組み合わせた“Circular Center”を開設。
市民が“循環を体験する”場をつくることで、行動が文化へと転換します。
「循環とは、技術ではなく文化の問題である」とPeters氏は語りました。
🍪 5. レジリエンス&プロスペリティ層(Resilience & Prosperity Layer)
CataloniaのMagdalena Walerysiak-Castillo氏は、
スペイン・カタルーニャ企業が進める都市循環プロジェクトを紹介しつつ、
循環経済の経済的・社会的インパクトを強調しました。
「循環移行は環境対策ではなく、経済回復と地域レジリエンスの戦略です。
EU全体では、最大200万人の新規雇用が見込まれています。」
地域内の資源循環、修理産業の拡大、リファービッシュによる技能再教育――
これらは同時に、社会的包摂と福祉の新しい形を生み出しています。

EUではCirculare Economyを議題の中心に据え、現段階はスケールアップ、スキルの浸透、規制のミスシフトを修正していくフェーズであると強調されていました
■ パネルディスカッション:「都市の未来をどうデザインするか」
続くパネルでは、ワルシャワ市のMarcin Grądzki氏、
欧州委員会DG Research & InnovationのLucie Blondel氏も加わり、
「都市をどう“一つの生態系”として再構築するか」が議論されました。
議論の共通点は、“断片化の克服”です。
環境・経済・建設・福祉といった部門が縦割りのままでは、循環は実現しません。
必要なのは、都市をまるごと一つの循環エコシステム(urban ecosystem)として設計し直すこと。
さらに、規制・税制・調達の設計も大きな鍵になります。
一次資源の方が二次資源より安いという逆転構造を是正し、リユースや再製造を後押しする法制度が求められています。
「循環行動を“難しい選択”ではなく、“便利で魅力的な選択”に変える」
そのデザインが、都市の未来を左右する。
■ サーキュラー都市への道 ― 「便利さの再設計」から始めよう
都市の循環移行は、長い道のりです。
制度・技術・文化のすべてが交差するプロセスであり、
誰か一人が完成させるものではありません。
けれども確かなことは、“始めなければ、学びも生まれない”ということ。
都市の循環は、勇気・つながり・共同行動の物語です。
“Circular transition in cities is not only about technology,
it’s about courage, connection, and collective action.”
― Silke Schleiff, TUTECH Innovation GmbH
都市の中に、再び「流れ」を取り戻すこと。
それが、欧州が今、真剣に描こうとしている“Circular Urban Futures”の姿でした。
文:Circular E 編集部
European Circular Economy Stakeholder Conference 2025
セッション:「How to Accelerate Circular Transition in Urban Environments」要約
登壇者:Silke Schleiff, Britta Peters, Magdalena Walerysiak-Castillo 他
著書プロフィール
山本 英治(YEJapan, CEO/ Circular E, Founder)
製造業に深い造詣を持ち、現在は欧州・日本の製造業や自治体におけるサーキュラーエコノミー戦略を実行するビジネスモデルデザイナー。
オランダと東京を拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなど欧州の規制適用や9R施策導入など仕組み化や実装支援を行う。
📘 スタートアップ × サーキュラーエコノミー シリーズ


