欧州CE規制の先にあるもの
― EU×サプライチェーンの対話から見えた、テキスタイル循環の現在地
―「複雑でデータが集まらない」という前提は変わり始めている
先日、EUとインドの関係者が参加する、テキスタイル分野の循環経済に関するワークショップを聴講しました。
EUの循環経済政策と連動した、公式な文脈の中で行われた対話の場です。
今回のテーマは、欧州のテキスタイル政策と、インドをはじめとするサプライチェーン国との関係性でした。
この議論は、日本のテキスタイル業界や、製造・調達・ブランドに関わる方々にとっても、いくつかの示唆を含んでいるように感じています。
「サプライチェーンが複雑すぎて、データは取れない」という前提
日本では長年、テキスタイル分野のサプライチェーンについて、
- 工程が多い
- 国や事業者が分散している
- 中小事業者が多く、データ管理が難しい
といった理由から、「全体像を把握するのは現実的ではない」と考えられてきた側面があります。
実務の現場にいれば、この感覚はとても自然なものだと思います。
欧州側の議論は、すでに次の段階に進んでいる
一方、今回のワークショップで印象的だったのは、欧州側の議論が、「データが取れないから仕方がない」という段階をすでに越えつつある点でした。
たとえば、
- 製品単位で、どの情報を最低限把握するのか
- すべてを一度に揃えなくても、どこから始められるのか
- 完璧なデータではなく、段階的な可視化をどう進めるか
といった、かなり現実的な話題が中心でした。
ESPR(持続可能な製品規制)やデジタル製品パスポート(DPP)といった制度名は出てきますが、議論の焦点は「制度を守ること」そのものではありません。
むしろ、
どうすればサプライチェーンと一緒に動かせるかという点に置かれていました。
インドとの連携が示している現実的なアプローチ
特に興味深かったのは、
インド側の取り組みが紹介されていた点です。
インドのテキスタイル産業も、
- 中小企業が多い
- 非公式な取引が存在する
- データのばらつきが大きい
という意味では、日本が想像する「難しさ」を多く抱えています。
それでも、クラスター単位での取り組みや、限定した製品・工程からのデータ整理など、スモールスタート型の実証が進み始めていることが共有されていました。
「まず全体を揃える」のではなく、「揃えられるところから始める」という考え方です。
日本にとっての示唆
今回の議論を通じて感じたのは、日本にとっての課題は「技術」や「知識」そのものよりも、
- どこまでを今やるのか
- 誰と一緒に始めるのか
- どの粒度なら現場が動けるのか
といった、設計の問題ではないかという点です。
欧州とインドの間では、すでに「完璧ではない前提」での対話が始まっています。
日本がその輪に入るとすれば、いきなり全体対応を目指す必要はありませんが、「自分たちには関係ない」と距離を取る段階でもなくなりつつある、
そう感じさせる内容でした。
規制はゴールではなく、共通言語になりつつある
今回のワークショップでは、規制を「守るべきルール」として語る場面は多くありませんでした。
むしろ、サプライチェーン間で話を進めるための共通言語として使われ始めている印象です。
どの情報を共有すれば話が進むのか。
どこまで分かれば、次の工程に渡せるのか。
そうした実務的な対話の土台として、規制や基準が使われているように見えました。
なお、こうした議論の背景には、EU側で進められているテキスタイル分野の準備調査があります。
今回のワークショップでは、いわゆる政策方針や制度概要だけでなく、設計オプションを検討するための技術的・実証的な整理が、段階的に共有されていることが示されていました。
特に、テキスタイルに関する準備調査の第3段階では、耐久性や情報要件、素材の扱いなどについて、複数の設計選択肢を比較しながら整理する形が取られています。
すべてを一律に決めるのではなく、どこに幅を持たせ、どこを最低限の共通項とするのか。
そうした検討が、実務者やサプライチェーンの関係者との対話を前提に進められている点は、日本側から見ても注目すべき動きだと感じました。
おわりに
テキスタイル分野の循環対応は、依然として複雑で、簡単な話ではありません。
ただ、「複雑だから難しい」という前提そのものが、少しずつ見直され始めているように感じます。
YEJapanでは、こうした海外での議論や動きを、過度に理想化することなく、日本の実務に照らして読み解いていきたいと考えています。
今回のワークショップは、そのための良い材料を与えてくれる場でした。
※本記事について
本記事は、
EUの循環経済政策文脈に連動した
EU×インドの公式ワークショップをもとにしたイベントレポートです。

