OECDとEUデジタル製品パスポート(DPP)におけるテキスタイルの未来

― 国連が進める“透明性プロトコル”とは

EUのデジタル製品パスポート(DPP)が本格化しつつあります。

テキスタイル分野は、その中心領域のひとつです。

しかし、この動きは単なる「欧州規制」の話ではありません。

OECD「Forum on Due Diligence in the Garment and Footwear Sector」で行われたセッション The UN Transparency Protocol(UNTP):衣料・フットウェア分野におけるバリューチェーンDD(デューデリジェンス)とトレーサビリティ・データへのアクセス改善」セミナーに参加しました。

狙いは、サプライチェーン上の“持続可能性・コンプライアンス関連データ”を、信頼でき、検証でき、相互運用できる形で流通させるための国連主導プロトコル(UNTP)の考え方・設計・導入ステップを、特にメーカー視点の課題から掘り下げることでした。

OECDや国連の議論を追っていると、
これはサプライチェーン全体の“構造転換”に関わるテーマであることが見えてきます。


DPPは「表示制度」ではない

DPPは、製品の素材・製造工程・環境情報などをデジタルで管理する仕組みです。

ただし重要なのは、
「情報を載せること」よりも、「情報を構造化できるか」 という点です。

今後の市場では、

・どこで作られたのか
・誰が影響を受けるのか
・環境負荷はどうか
・再利用可能か

を説明できることが前提になります。

これは“輸出書類”の話ではなく、企業内部のデータ設計の話でもあります。


国連が進める「透明性プロトコル」

同時に、国連では
UN Transparency Protocol(透明性プロトコル) の議論が進んでいます。

これは新しい巨大システムを作るという話ではありません。

むしろ、

既存のERP、トレーサビリティ、認証、監査データを
どうやって“共通言語”でつなぐか

という取り組みです。

ここから読み取れるのは、DPPは欧州の制度であっても、“透明性の標準化”はグローバルで進む可能性が高い、ということです。


そして論点は「人」と「リスク」に広がる

OECDの議論では、さらに重要な論点が出ています。

CSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)では、「ステークホルダー」とは広義の関係者ではなく、
実際に影響を受ける労働者やコミュニティを指す

と整理されています。

つまり今後は、

✔ データを集めるだけでなく
✔ リスクを特定し
✔ 影響を受ける人々との関与をどう設計するか

が問われることになります。

DPPはその“情報基盤”の一部にすぎません。


テキスタイルはなぜ中心にあるのか

古着貿易の拡大、
合成繊維・混紡の増加、
短寿命化する消費構造。

OECDでは、

「古着として輸出されるが、実態は廃棄物」

という問題も議論されています。

循環型経済を進めるには、

✔ 品質
✔ 分類
✔ ラベル
✔ トレーサビリティ

といった“技術的な基盤”が不可欠になります。

DPPや透明性プロトコルは、こうした議論ともつながっています。


これは“規制対応”の話ではない

日本企業にとって重要なのは、

これを「欧州向けの規制」と見るか、「グローバル市場の再設計」と見るか、です。

実際に欧州では、

・Open Supply Hubによる施設IDの標準化
・賃金管理システム(WMS)による労働環境の可視化
・トレーサビリティの原料起点化

などが進んでいます。

制度・データ・人権・循環が、ひとつの構造に統合されつつある印象です。


今後の連載で扱うテーマ

次回以降、

  • CSDDDにおけるリスク・スコーピングとは何か
  • ステークホルダー関与の実務上の意味
  • 古着貿易を“循環”にするための技術的規制(TBT)
  • DPPと施設ID・トレーサビリティの実装論
  • H&Mの賃金管理システム(WMS)事例

などを、順に整理していきます。

※本記事はOECDおよび欧州規制関連セミナーの議論を基に整理しています。


最後に

DPPや透明性プロトコルは、まだ完成形ではありません。

しかし方向性は明確です。

テキスタイル産業は、

「作る」から
「説明できる」へ。

そして

「説明」から
「構造として証明できる」へ。

弊社は欧州でサーキュラーエコノミーを推進するテキスタイル関連パートナーやアドバイザーと連携し、制度・実装・現場の動きを横断的に整理しています。

もし、

・自社への影響を俯瞰したい
・欧州の実務動向を整理したい
・戦略としてどう位置づけるか検討したい

という場合は、お気軽にご相談ください。

制度の解説ではなく、
「経営判断につなげる整理」をご一緒できればと思います。


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EUテキスタイル規制の全体像は、以下の記事で体系的に整理しています。

【保存版】EUテキスタイル規制の全体像|DPP・CSDDD・循環政策を体系整理

著書プロフィール

山本 英治(YEJapan, CEO/ Circular E, Founder)
製造業に深い造詣を持ち、現在は欧州・日本の製造業や自治体におけるサーキュラーエコノミー戦略を実行するビジネスモデルデザイナー。
オランダと東京を拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなど欧州の規制適用や9R施策導入など仕組み化や実装支援を行う。

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