ASEANイベントレポート②:Asian Development Bank-Circular Economy Forum 2025

―韓国EPR(生産者拡大責任)・マニラのデジタルツイン・ASMの循環プラットフォームから見える“実装力”―

アジアが動かす循環経済の最前線

循環経済という言葉は、欧州を中心に聞かれることが多いですが、いま実際に現場で「回しながら学び、制度を進化させている」のはアジアです。
今回紹介する3つの講演――韓国・フィリピン・アジア企業発――はいずれも「政策×テクノロジー×現場行動」を有機的に結び、循環を“実装”している点が共通していました。


1. 韓国EPR制度 ―「設計より運用で回す」国家的モデル

最初の登壇は、ソウルの研究者 サラ・リム氏(K-ETC) による「韓国における拡大生産者責任(EPR)」です。
韓国は2003年にEPRを導入し、生産者が製造からリサイクルまでの全工程に責任を負う制度を運用しています。

特徴は、制度が非常に“定量的”に動いていること。
政府が品目別に年次リサイクル義務量を設定し、企業は達成度に応じて追加拠出金インセンティブが決まります。監査や報告もすべてオンラインで行われ、データドリブンなガバナンスが根づいています。

背景には、1990年代から続くごみ従量制(VBWF)食品廃棄物のRFID課金があります。
「出すほど払う」という仕組みが家庭に浸透しており、EPRの“受け皿”として社会全体の行動変容がすでに進んでいたのです。

韓国のEPRは、制度を設計理論でなく運用管理で回すモデルといえます。
EUが「製品設計」から、そして日本が「分業と協調」から循環を描くのに対し、韓国は「価格シグナルとデータ監査」で回す。
このバランスが、これからのアジア各国にとって大きな示唆を与えています。


2. マニラ、パシッグ川デジタルツイン ― データで「ごみの流れ」を見える化する挑戦

続いて紹介されたのは、ADB(アジア開発銀行)支援のパシッグ川デジタルツイン・プロジェクト
登壇したエンジニアは「12年前からこの川で水文調査をしてきた」と語り、
プラスチック汚染の現実を自分のフィールドから見続けてきた人でした。

この取り組みの目的は、マニラの主要河川であるパシッグ川のプラスチック廃棄物の流れをリアルタイムで可視化すること。
衛星画像、IoTカメラ、機械学習を組み合わせ、季節や降雨によるごみの流動を予測し、
清掃・バリア設置・収集のタイミングを最適化します。

さらに、河川沿いの自治体や市民団体のデータを統合し、
「どこで」「何が」「どの季節に」堆積するのかをデジタルツイン(仮想モデル)で再現。
これを行政の公共デジタルインフラ
として引き渡すことを目指しています。

ごみの“結果”ではなく、“流れ”を科学する。
この発想は、日本の河川管理や流域計画にも通じる重要なアプローチです。


3. フィリピン、ASM ― 「トレーサビリティ×AI×クレジット」で資源循環を金融に接続

最後は、フィリピン発のスタートアップ ASM社
彼らが開発したのは、素材の回収から再資源化・再販までをスマート台帳(ブロックチェーン)+AI+IoTでつなぐ循環プラットフォームです。

このシステムは、回収量や素材の来歴をリアルタイムで記録・認証し、
それをもとにEPRクレジットやプラスチッククレジットを発行。
企業の報告義務やカーボン会計にも利用できる仕組みです。

現場では、ジャンクショップや非公式回収者にもIDを付与し、デジタル取引に参加できるようにするなど、
「テクノロジーでインクルージョン(包摂)を実現」している点が印象的でした。

EPRを制度から“実務”へ、データから“金融”へと接続していくこのアプローチは、
循環経済を社会インフラ+市場インセンティブで支える新しいモデルといえます。

イベント講演の様子


インサイト:アジアが先行する「実装型サーキュラー」の時代へ

三つの事例を通して見えてくるのは、アジアが“制度より実装”で循環経済を動かしているという点です。

  • 韓国は「国家レベルの数値運用」。
  • フィリピンは「データによる現場最適化」。
  • ASMは「金融と包摂をつなぐプラットフォーム」。

いずれも、「どう回すか」「誰が担うか」「どう測るか」という実務の循環デザインに踏み込んでいます。
欧州のように完璧な規制を待たずとも、テクノロジーと社会設計で動かせることを示しています。

日本がこれらから学べるのは、

  • EPR+従量課金+データ監査という運用型循環の仕組み、
  • 地域・企業・市民が共有できるKPIとデータ標準化
  • そして非公式セクターを包摂する循環のガバナンス

制度や理想を掲げるより、「どの仕組みが実際に回っているか」を見て学ぶこと――
これこそが、アジア型サーキュラーの真髄です。

著書プロフィール

山本 英治(YEJapan, CEO/ Circular E, Founder)
製造業に深い造詣を持ち、現在は欧州・日本の製造業や自治体におけるサーキュラーエコノミー戦略を実行するビジネスモデルデザイナー。
オランダと東京を拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなど欧州の規制適用や9R施策導入など仕組み化や実装支援を行う。

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