北欧循環建設エコシステムの立ち上げから見えたもの
— デンマーク「Circular Build Forum」最終日ウェブセッション参加から、日本への示唆
最近、日本でも「北欧のサーキュラー」や「北欧の循環型社会」に注目が集まり始めています。
制度設計、都市政策、建築の考え方など、断片的には知られるようになってきましたが、いま北欧で何が“次の段階”に入っているのかは、まだ十分に共有されていないように感じます。
今回、私は
「Launch of the Nordic Ecosystem for Circular Construction」
— デンマークの Circular Build Forum を締めくくる最終日のウェブセッションにオンライン参加しました。
このセッションは単なるクロージングではなく、
- これまでの議論のハイライト
- 北欧循環建設プロジェクトの全体像
- そして 「北欧循環建設コミュニティ(Nordic Ecosystem)」の正式な立ち上げ
を共有する、非常に象徴的な位置づけのものでした。
北欧は「循環型建設の議論」を終え、次のフェーズに入っている
セッションを通じて強く感じたのは、北欧ではすでに
「循環型建設は可能か?」という問いは終わっているということです。
議論の前提はこうでした。
- すでに循環原則を組み込んだ建築事例は複数存在する
- 病院、教育施設、公共建築などで実装が進んでいる
- いま必要なのは「理論」ではなく「スケール」と「市場」
つまり、北欧における関心は
How to design circular buildings ではなく、
How to make circular construction the normal market choice
へと明確に移っています。
規制と評価が「需要」を生み始めている
特に印象的だったのは、デンマークを中心とした建築規制とLCA評価の話です。
- 建物由来のCO₂排出量に明確な制限がある
- LCA(ライフサイクルアセスメント)が設計・調達の前提になっている
- 再利用材・リサイクル材が評価上有利に扱われる仕組みがある
この結果、循環型の選択は「環境配慮」ではなく、
合理的で、説明可能で、採用されやすい選択肢になりつつあります。
ここで重要なのは、
北欧では「意識の高さ」が市場を動かしているのではなく、制度設計が需要をつくっているという点です。
それでも残る共通課題:市場インフラとスケール
一方で、セッションでは課題も率直に語られていました。
- 循環型素材やソリューションは存在する
- しかし、それが「必要な量・タイミング・場所」で流通する市場は未成熟
- 回収・検査・物流・標準化・少量生産によるコストの壁がある
北欧ですら、
「できること」と「広く使われること」の間にはギャップがあるという認識は共有されています。
だからこそ今回、国を超えて知識・事例・市場形成を束ねる「Nordic Ecosystem for Circular Construction」
という“共同の枠組み”が立ち上げられました。
日本の建設・公共調達に引き寄せて考えると
ここからが、日本にとって最も重要な示唆だと思います。
日本の建設分野、とりわけ公共調達では、
- 価格の妥当性
- 公平性・透明性
- 前例踏襲
が強く求められます。その結果、循環型の取り組みは「良いことだが、調達には載せにくい」という位置に置かれがちです。
しかし北欧の動きを見ると、問いの立て方が違います。
「循環型をどう調達に入れるか?」ではなく
「循環型を前提に、評価軸をどう設計するか?」
LCAやCO₂、TCO(総所有コスト)といった評価の物差しを先に整えることで、循環型の選択が「特別な判断」ではなく「通常の判断」になります。
これは、日本の公共建築(学校、庁舎、病院、公共住宅)やインフラ更新期を迎える自治体にとって、極めて示唆的です。
北欧から学ぶべきは「モデル」ではなく「順番」
北欧はよく「先進的」「理想的」と言われますが、今回のウェブセッションを通じて感じたのは、
彼らが特別だから進んでいるのではなく、順番を間違えていないということです。
- 評価制度・規制で需要をつくる
- 需要が市場を生む
- 市場が実装事例と学習を加速させる
- 事例が次の制度改善につながる
この循環が、まだ未完成ながらも回り始めています。
日本が北欧から学ぶべきなのは、完成形のコピーではなく、この「進め方」そのものなのだと思います。
おわりに
最終日のウェブセッションという限られた参加形態ではありましたが、北欧循環建設の現在地と、次に向かう方向性は十分に伝わってきました。
日本でも、建設・公共調達・GX・地域再生が交差する領域で、同じ問いを避けては通れません。
循環型を「志」ではなく「前提」にするには、何から設計し直すべきか。
北欧の取り組みは、そのヒントを静かに、しかし明確に示しているように感じます。
著書プロフィール
山本 英治(YEJapan, CEO/ Circular E, Founder)
製造業に深い造詣を持ち、現在は欧州・日本の製造業や自治体におけるサーキュラーエコノミー戦略を実行するビジネスモデルデザイナー。
オランダと東京を拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなど欧州の規制適用や9R施策導入など仕組み化や実装支援を行う。


