欧州イベントレポート⑰【ドイツ デッサウロスラ発】欧州委員会の都市実証会議から見えた
サーキュラーシティのリアルと都市再生のヒント
欧州の都市再生から見えたヒント
ヨーロッパでは今、サーキュラーエコノミーは単なる環境政策ではなく、都市政策や地域経済の再生と結びついた取り組みとして進んでいます。
先日、欧州委員会のサーキュラーエコノミー関連プログラムの一環として開催された都市実証イベント(NiCE Conference)に参加する機会がありました。会場には欧州各国の自治体、研究機関、企業、政策担当者など80名以上が集まり、都市レベルで循環経済をどのように実装していくかについて議論が行われました。
今回の会場となったデッサウ=ロスラウは、ドイツ東部に位置する都市で、20世紀初頭には化学工業などの産業で発展し、同時にバウハウスの拠点としても知られる街です。東西ドイツ統一後は産業構造の変化や人口減少といった課題にも直面してきましたが、近年は歴史的資産や既存の都市インフラを活かしながら、持続可能な都市再生の取り組みが進められています。こうした背景を持つ都市で開催された点も、このイベントを象徴するものだったように感じました。
その中でも印象的だったのが、「Addressing Barriers and Capacity Gaps to Strengthen Social Outcomes」というセッションです。このセッションは通常の講演形式ではなく、参加者全員が議論に加わるワークショップ形式で進められました。
各都市の担当者や研究者が、それぞれの地域で直面している課題や成功事例を共有しながら、サーキュラーエコノミーを実装する際に生じる「社会的な障壁」や「行政の能力ギャップ」について議論しました。
日本の視点からの参加
今回のワークショップでは、私自身も参加者の一人として議論に加わりました。
会場には欧州各国の都市関係者が集まっていましたが、日本からの参加者は私一人でした。
議論の中では、日本の都市や地域が抱える課題についても紹介しました。
例えば日本では、
- 商店街の空洞化
- 空き店舗や空きビルの増加
- 地方都市の人口減少
- 空き家問題
など、都市の未利用資産が増えています。
一方で、修理、リユース、地域ビジネス、コミュニティ活動など、循環型の取り組みを進める小さな事業者や市民活動も増えています。しかし、そうした活動が継続的に拠点を持つことは簡単ではありません。
こうした状況は、欧州の都市が直面している課題とも多くの共通点があり、ワークショップの参加者とも活発な意見交換が行われました。
都市再生と循環経済の接点
欧州では、閉鎖された工場や空きビルなどの産業遺産を活用しながら、サーキュラーエコノミーの拠点を形成する取り組みが増えています。
セッションでは、繊維産業で栄えた都市の工場跡地を再生した事例が紹介されました。自治体が建物を取得し、改修を進めながら中小企業やスタートアップを受け入れ、循環型産業のエコシステムを形成していくプロジェクトです。
興味深かったのは、建物が完全に改修されるまで待つのではなく、改修と同時に企業や活動を受け入れていく方法を取っていることでした。
これにより、
- 地域の雇用を早期に生み出す
- 企業活動を通じて必要な改修内容が見えてくる
- 市民との関係を作りながらプロジェクトを進められる
といった効果が生まれています。
また、企業だけでなく、市民向けのワークショップや見学会も開催され、地域の人々が循環経済を体験できる場所として機能している点も特徴的でした。
欧州ではEUレベルで循環経済政策が進められている一方で、実際の実装の多くは都市や地域の自治体が担っています。そのため、政策目標と現場の実務の間に、組織体制や予算、人材といった面でのギャップが生まれることも少なくありません。今回のワークショップでも、こうした行政の実装能力や部局間連携といったテーマが、多くの都市に共通する課題として議論されていました。
成功を分けたのは「自治体の準備」
一方で、すべての都市が同じように成功しているわけではありません。
別の都市では、民間デベロッパーが工場跡地を取得し、サーキュラーエコノミー拠点として再生する可能性がありました。しかし、自治体側に明確な戦略や予算がなく、結果としてその構想は実現せず、一般的なビジネスパークとして開発されることになりました。
この対比が示しているのは、循環経済の実装には
- 行政のビジョン
- 組織内の連携
- 予算
- 市民や企業との信頼関係
といった地域のエコシステムを支える基盤が不可欠だということです。
発表者が最後に語った言葉がとても印象的でした。
「これは鶏が先か卵が先かの問題ではありません。
農場全体が必要なのです。」
つまり、循環型社会を実現するには、行政、企業、市民、研究機関などすべての主体が関わるエコシステムを構築する必要があるということです。
日本への示唆
欧州の都市の事例を見ていると、日本の地方都市が抱える課題とも多くの共通点があると感じます。
日本でも、
- 空き店舗
- 空きビル
- 工場跡地
- 空き家
などの未利用資産が増えています。これらを単なる不動産問題として扱うのではなく、地域ビジネスやコミュニティ活動、循環型産業の拠点として再活用する視点が求められているのではないでしょうか。
サーキュラーエコノミーとは単なるリサイクル政策ではありません。
それは、都市や地域の資源を見直し、社会の仕組みそのものを再設計していく取り組みでもあります。
欧州の都市実証の現場から見えてきたこうした視点は、日本の地域づくりを考える上でも多くのヒントを与えてくれるものでした。
Circular Eとしても、欧州で進む都市レベルの循環型政策や実践を継続的に観察しながら、日本の地域政策や都市再生との接点について今後も考えていきたいと思います。
著書プロフィール
山本 英治(YEJapan, CEO/ Circular E, Founder)
製造業に深い造詣を持ち、現在は欧州・日本の製造業や自治体におけるサーキュラーエコノミー戦略を実行するビジネスモデルデザイナー。
オランダと東京を拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなど欧州の規制適用や9R施策導入など仕組み化や実装支援を行う。

