欧州が進めるESPRとDPPが迫るファッション業界への影響とは
― テキスタイルから靴へ、“循環型デザイン”が義務化される時代 ―
いま欧州では、テキスタイル産業が最優先分野として法整備の最前線に立たされています。
背景にあるのは、衣料廃棄・化学繊維・マイクロプラスチックといった環境負荷の深刻さです。
そのためEUは、製品の設計段階から廃棄までを管理する新たな仕組みとして、
ESPR(持続可能な製品規則)とEPR(拡大生産者責任)を制度の軸に据えました。
これらの法制度は、単なる環境施策ではありません。
「循環型のものづくりと、生産者の透明性責任をセットで義務化する産業政策」へと進化しています。
本稿は、英国UCA(University for the Creative Arts)内のCentre for Sustainable Design®と英国規格協会(BSI)が共催したEU Just Fashion Projectウェビナーで共有された情報をもとに、
2025年以降、テキスタイル業界と日本の中小企業にどのような影響が及ぶのかを整理したものです。
1. なぜテキスタイルが“最初の対象”に選ばれたのか
欧州委員会は、製品ごとに循環型デザインの要件を定めるESPRの第1分野として、
「テキスタイル(衣料・繊維)」を優先適用カテゴリーに指定しました。
その理由は明快です。
国際連合によると世界で毎年、およそ20億トン以上の衣類が廃棄され、これは標準的な輸送コンテナにこれらの廃棄物を積載すると地球を25周するほどの量に匹敵するほどです。
テキスタイル業界のサプライチェーンは複雑で、素材構成や再生比率を正確に追跡できない。
「どこで・何から・誰によって作られたか」を明示できない製品が多く、これがまさに循環経済のボトルネックになっていたのです。
その課題を解決するために導入されるのが、DPP(デジタル製品パスポート)。欧州ではまずバッテリーに2027年から適応していきます。
素材情報、修理・再販履歴、環境データをデジタルで一元管理し、QRコードやタグで誰でもそのデータを確認できる仕組みです。

2. 靴(フットウェア)も次の対象へ
当初、DPPのテキスタイル業界の対象は衣料のみとされていましたが、2025年10月施行の廃棄物枠組指令(WFD)改正により、
靴(フットウェア)もEPR(生産者拡大責任)対象に追加されました。
このWFD指令は「生産者は廃繊維の収集、選別、リサイクルの費用を負担する」ことを明記され、EU域内で繊維製品を販売する生産者は、指令発効後30ヶ月以内に、各加盟国が新たに設置する生産者責任(EPR)制度を通じて、繊維製品の収集、選別、リサイクルにかかる費用を負担しなければなりません。
これらの規定は、電子商取引ツールを利用する生産者を含むすべての生産者に適用され、EU加盟国に拠点があるか域外に拠点があるかは問いません。小規模事業者には、EPR要件の遵守期間として1年間の猶予が与えられます。
ここで注目される2025年10月に施行されるWFDの新たな規則には、衣料品やアクセサリー、帽子、履物、毛布、寝具・キッチンリネン、カーテンなどの製品に適用が追加されています。またEU議会の提案により、EU加盟国はマットレス製造業者向けのEPR制度も導入する可能性があります。
これにより、将来的にはESPRとDPPも第一段階より靴、また第二段階では家庭用テキスタイル業界分野他にも拡大される可能性が極めて高いと見られています。
すでに欧州委員会内部では、靴を含めた循環設計・素材情報開示の枠組みが議論段階に入っています。
つまり、テキスタイルと靴は今後一体として「循環型製品設計のモデル業界」となる見通しです。
3. ファッション大国フランスが先陣を切る
この潮流を象徴するのが、ファッション大国フランスです。
フランス政府はEU全体の法整備に先駆け、2023年から
「Repairability Index(修理容易性指標)」や「トレーサビリティ表示」の義務化を段階導入。
さらに2025年以降、“Fast Fashion Ban”(過剰生産抑制法案)を審議中で、
再生素材率・在庫量・輸送距離などを基準に課徴金を科す仕組みまで検討されています。
ファッションの中心地が率先して制度化を進めることは、
他のEU加盟国だけでなく、日本を含む海外市場にも波及するのは確実です。

4. すでに始まっている段階的導入 ― 欧州と日本の温度差
欧州ではすでに、多くのブランドや小売がESPRとDPPを見据えた社内対応を進めています。
大手ファストファッション企業は、製品ラベルにQRコードを導入し、再生繊維比率やサプライヤー情報を開示。
英国や北欧では、再販・修理サービスを標準化する動きも進んでいます。
一方、日本の状況はどうでしょうか。
ESPRの枠組みやDPPの仕様はまだ十分に理解されておらず、
「何から準備すべきか分からない」という声が多く聞かれます。
しかし、欧州向け製品を扱う以上、適用除外はありません。
ESPRはEU域外企業にも直接影響するため、日本企業も早急な対応が求められています。
5. 中小企業が今から取り組むべきこと
- 素材・工程データの整理
再生繊維の割合や染色・仕上げ工程など、把握できる範囲からデータを標準化しておきましょう。 - 修理・再販を前提にした設計
パーツ交換・再縫製を容易にする構造を取り入れ、長寿命化を設計段階で実現します。 - 情報開示に対応する体制構築
サプライヤー間で情報を安全に共有できる社内ルールや、QRコード管理の仕組みを検討しましょう。
6. 循環を「コスト」ではなく「信頼」に変えるために
ESPRとDPPは、企業にとって新たな負担であると同時に、信頼を可視化するチャンスでもあります。
サステナブルな生産と透明性は、消費者や投資家、海外バイヤーの評価基準に直結します。
中小企業こそ、自社の強みである“技術力”と“誠実な製造”をデータで証明できる仕組みを整えることが、
次世代市場での競争力につながります。
7. 次回予告:欧州のリアルと中国の追随
次回の記事では、同ウェビナーで交わされた参加者の質問や議論をもとに、欧州の現場のリアルと中国の追随を取り上げます。
ESPR/DPPをめぐる不透明さ、標準化競争、そして国際的な緊張関係を通して、
循環型ファッションの次のステージを考えます。
出典:
- The Centre for Sustainable Design® (UCA) & British Standards Institution (BSI), EU Just Fashion Project Webinar, 2025
- European Commission ESPR / DPP documents
- WFD Amendment (2025 Revision)
- French Ministry for Ecological Transition Reports
執筆:Circular E
著書プロフィール
山本 英治(YEJapan, CEO/ Circular E, Founder)
製造業に深い造詣を持ち、現在は欧州・日本の製造業や自治体におけるサーキュラーエコノミー戦略を実行するビジネスモデルデザイナー。
オランダと東京を拠点にESPR、DPP、ISO 59000シリーズなど欧州の規制適用や9R施策導入など仕組み化や実装支援を行う。
📘 スタートアップ × サーキュラーエコノミー シリーズ


