――ウクライナ復興の現場から、日本への示唆を考える

日本にいると、ウクライナのニュースはどうしても「遠い国の出来事」に感じられます。
地理的にも離れており、日常生活との直接的な接点は多くありません。

一方で、欧州にいると、ウクライナは決して他人事ではありません。
地政学的にも、エネルギー・食料・安全保障の観点からも、ウクライナは欧州にとって極めて重要な存在です。そして戦後、ウクライナはEU加盟を前提とした復興プロセスを歩むことが、すでに共有された前提になっています。

先日、ブリュッセルで開催された公式イベントでは、
その「戦後復興」をサーキュラーエコノミー(循環型経済)と交差させて考えるという、非常に示唆的な議論が行われました。
EU関係機関、国連、ウクライナ政府関係者、欧州企業が一堂に会し、私は日本人として唯一参加する立場でした。

今回の議論には、EU関係機関や国連、ウクライナ政府、欧州企業が参加しており、私は日本から参加した立場として、このやり取りを間近で聞く機会を得ました。

そこで強く感じたのは、
この議論は「戦争」や「ウクライナ」だけの話ではない、ということです。


復興は「建てること」から始まらない

日本で復興というと、「インフラを再建する」「建物を建て直す」というイメージが先に立ちます。
しかし、現場で繰り返し語られていたのは、まったく別の出発点でした。

復興は、瓦礫と有害廃棄物から始まる、という現実です。

戦争によって生まれた瓦礫には、単なるコンクリートだけでなく、
アスベスト、不発弾、油汚染、PCB、医療廃棄物などが混在しています。
これらは建設を始める前に、人の命や健康、そして将来の土地利用に直接影響を与える「前提条件」です。

印象的だったのは、
「環境への配慮が復興を遅らせるのではない。
環境を後回しにした復興こそが、後で大きなコストを生む」という認識が、共通理解になっていたことです。

これは日本の災害復興とも、決して無縁ではありません。


EU基準と「スピード」の間で揺れる現場

もう一つ、非常にリアルだったのが「基準」と「スピード」の問題です。

EUでは、環境・安全・人権に関する基準が厳格に設計されています。
ウクライナは将来のEU加盟を前提としているため、復興もこれらの基準と無関係ではいられません。

一方で、現場には切実な事情があります。
「一刻も早く家を建てたい」「インフラを復旧させたい」という現実です。

会場では、こんな率直な言葉もありました。

EU基準は理想だが、戦時下・復興初期の現場にそのまま当てはめることはできない。

重要なのは、基準を下げるかどうかではありません。
どこまでを今守り、どこを移行期間として設計するのか。
その“設計”こそが、復興の質を左右するという議論でした。


なぜ「循環型復興(Circular Reconstruction)」なのか

この一連の議論を貫いていたのが、
Circular Reconstruction(循環型復興)という考え方です。

これは単に「リサイクルを進める」という意味ではありません。
復興そのものを、

  • 資源の流れ
  • 廃棄物の扱い
  • 安全と健康
  • 将来の産業・市場
    まで含めて再設計するという視点です。

特に印象的だったのは、
瓦礫や廃棄物の処理を「コスト」ではなく、
将来の価値を生む投資として捉えようとしている点でした。

復興に投入される資金が、
短期的な復旧だけでなく、
長期的に強靭で循環的な経済を生むかどうか。
それが、今まさに問われています。

日本の復興と、もう一つの視点

日本は、世界でも有数の災害大国です。
地震、津波、豪雨、台風――
復旧と復興を、現実的かつ迅速に進めてきた経験があります。

その一方で、欧州で議論されていた内容を聞きながら、
「復興を設計する際に、どこまでを最初に考えてきただろうか」
と、自然と考えさせられました。

瓦礫や廃棄物、有害物質の扱いは、
多くの場合、復旧が進んだ“後”に表面化します。
しかし欧州の議論では、それらが最初の前提条件として扱われていました。

これは、日本の復興のやり方が間違っている、という話ではありません。
むしろ、限られた時間と資源の中で、何を優先するかという判断の違いです。

サーキュラーエコノミーという言葉を使うなら、
それは「循環させるべきだ」という主張というよりも、
復興の意思決定の中で見落とされがちな論点を浮かび上がらせる視点に近いと感じました。


事業として考える以前に

今回のウクライナ復興の議論は、
すぐに日本で同じことを適用できる、という性質のものではありません。

ただ、

  • 復興に投入される資金が、どこまで将来の負債になり得るのか
  • 廃棄物や有害物の扱いが、後の産業や地域にどう影響するのか

そうした問いを初期段階で持てるかどうかが、
長期的には大きな差になるのではないか、という示唆は残りました。

YEJapanとしても、
「復興にサーキュラーエコノミーを当てはめる」ことより、
こうした問いがどこで、どのように生まれているのかを整理し、日本に伝えること
その役割の方が重要だと感じています。

YEJapanでは、こうした欧州での議論や現場の動きを、単なる海外事例として紹介するのではなく、日本の文脈でどう受け止め、どう考え直せるのかを整理しながら発信しています。
今後も、セミナーや勉強会などを通じて、復興や循環型の視点について皆さんと一緒に考える場をつくっていければと思います。


おわりに

ウクライナの復興は、
地理的にも、歴史的にも、日本とは異なる文脈にあります。

それでも、危機の後に
「何を急ぎ、何を後回しにし、何を最初に考えるのか」
という問いは、どの国にも共通するものです。

欧州で交わされている循環型復興の議論は、
日本の復興や事業を考える際にも、
一つの“考えるための材料”として受け取る価値があるのではないでしょうか。

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